書評:『生物と無生物のあいだ』福岡伸一/講談社現代新書1891

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)

タイトルと内容が合っていない、というか内容がタイトルを凌駕している、非常に読み応えのある一冊。科学者の文章はともすると非常に一般の人にとって読みづらいものとなることがあるが、この著者の文章は非常に上手い。上手いどころか、普通の小説よりもよっぽど読んでいて次の展開が気になる。科学者でありながら作家としての才能も人一倍持っているのだろう。
本書は生物とは何か、ということについて著者がこれまで体験してきた最前線の現場と、様々な先駆者たちが解き明かしてきた新発見を織り交ぜてストーリー仕立てでまとめられた一冊。
冒頭で展開する、野口英世に対する世界における評価と日本における評価についての大きな乖離についての説明から、本書に引き込まれる展開が始まる。野口英世が結局発見することができなかったウィルス。生物と無生物のあいだにおける、究極の生物と位置づけることもできるかもしれない存在であるウィルスを皮切りに、"DNA"という、生物を生物たらしめている存在の意味や機能について、非常にドキドキハラハラのストーリーが展開される。単なる新書として技術的な説明をするだけでない、著者ならではのストーリーが本書では見事に描かれている。
とはいえ、単なる読み物として面白いだけでなく、本書では科学読み物としての面白さも十分備えている。私は狂牛病の原因とされる異常プリオン、つまりはタンパク質の異常がなぜ狂牛病という症状を発祥させるのかという仕組みが本書を読むまでいまいち理解できなかったのだが、本書で初めて「納得」がいく説明と出会うことができた(興味のある方はぜひ本書を手に取り、p.181あたりをお読み頂きたい)。生物という仕組みが作り上げた非常に優れたシステムが、優れているがゆえに抱えているジレンマの1つともいえるであろうこれらのトラブル。そしてそれらの問題を抱えながらも、究極的に種を維持する生命という仕組みの素晴らしさを本書を読むことによって深く、感じることができるだろう。