書評:『世界は分けてもわからない』福岡伸一/講談社現代新書2000

2007年6月に『生物と無生物のあいだ』を読んで以来、新しい書籍が刊行される度に必ず読んでいる福岡伸一氏の最新刊。

世界は分けてもわからない (講談社現代新書)

世界は分けてもわからない (講談社現代新書)

連続して変化する色のグラデーションを見ると、私たちはその中に不連続な、存在しないはずの境界を見てしまう。逆に不連続な点と線があると、私たちはそれを繋いで連続した図像を作ってしまう。つまり、私たちは、本当は無関係なことがらに、因果関係を付与しがちなのだ。……ヒトの目が切り取った「部分」は人工的なものであり、ヒトの認識が見出した「関係」の多くは妄想でしかない。私たちは見ようと思うものしか見ることができない。

本書は科学そのもの、というよりも人が科学に対して向き合うことそのものについて切り込んだ1冊。分子生物学者でありながら、これだけのストーリーを文章として構成できる才能を併せ持っているのだからすごい。ストーリーの構成力と科学読み物としての奥深さを併せ持った本作は誰にでもお勧めできる1冊なのだが、特に科学者や科学と関連する仕事を志向する学生などにはぜひ読んで欲しい。冒頭から序盤にかけて、少々比喩的な展開が続くためにちょっと違和感を感じてしまうかもしれないが、後半に読み進めるに従って前半で展開されたそれらの比喩が1つ1つパーツが組み合わさっていくように繋がっていく展開に、きっとあなたは気持ちよくなっていくことになるだろう。

p.62
顕微鏡で生物組織を観察すると、細胞が整然と並んでいる様子を見ることができる。倍率を上げると細胞の一粒が、一気に近づいて見える。しかしその瞬間、私は元の視野のどの一粒が切り取られて拡大されたのかを見失う。拡大された絵は元の世界のごく一部であり、一部の光しか届いていない。ほの暗い。その暗さの中に名もなき構造体がたゆたっている。そして、今見ている視野の一歩外の世界は、視野内部の世界と均一に連続している保証はどこにもないのである。

2章の最後はこう締めくくられ、そして本幕とも言える3章に突入していく。
ぜひ多少物足りなさや違和感、面白くなさを感じてしまったとしても、ぜひここから先に入るまでは読み進めてみて欲しい。きっと最後まで引き込まれたまま読み進めることになること請け合いだ。