書評:『噂の拡がり方ーネットワーク科学で世界を読み解く』林幸雄/化学同人(同人選書)

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噂の拡がり方―ネットワーク科学で世界を読み解く (DOJIN選書 (9)) (DOJIN選書 (9))

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書評/サイエンス

新書よりも一回り大きい選書として書かれた1冊。複雑ネットワーク科学を専門とする、北陸先端科学技術大学院大学にて准教授を務める著者による噂や情報、ウィルスなどの拡散とネットワーク構造の関連性や、スケールフリーネットワークなどに関する一般向けの解説本である。

目次

  • 第1章 世間は意外と狭い!
  • 第2章 噂はどのように広がるのか?
  • 第3章 時空を超える伝達メディア
  • 第4章 インターネットの威力
  • 第5章 蔓延するウイルス
  • 第6章 世界的交通網の拡大がもたらすもの
  • 第7章 ネットワーク科学からのメッセージ

ネットワーク複雑系に興味がある方はもちろん、だいぶ知られるようになった"6次の隔たり"や、ネットワークモデルに興味があるという方には取っ掛かりとして読む価値がある。
ネットワーク理論についてはまだ新しい分野だということもあるのだが、あまり日本人の著書も数がない。本Blogでもこの分野に関連する本の紹介は何度かさせて頂いており、最新のものは下記エントリーを参照してもらいたい。
http://d.hatena.ne.jp/takaochan/20070528/1180362387
上記で紹介している『私たちはどうつながっているのかーネットワークの科学を応用する』増田直紀/中公新書も本書とあわせて読む価値がある。その他、上記エントリーではネットワーク理論の創始者や開拓者たちが書いた著作をリンクしているので、ぜひそちらも読んでみてほしい。新しい分野であることのいいところは、リアルタイムでその発展を体感できるところ、そしてなんといってもこの分野を切り開いた人たちがまだ現役で活躍しており、直接その著作を順次手に入れていくことができることだろう。
本書は理論としてのネットワーク科学のみならず、その周りの「つながり」から解説が始められている。つながり検証で有名な事例であるエルデシュ数ベーコン数はもちろん、日本の役者における"たけし"数や"由紀恵"数などを紹介し、かなり狭い世界として業界?が成り立っていることが示される。
(いずれの〜数についても、本人とのつながりを示す。エルデシュ数の場合は論文の共著つながり、ベーコン数やたけし数、由紀恵数は共演つながりによる。本人と直接のつながりがあれば〜数は1、直接つながりのある人とつながりがあれば2、という具合)
タイトルにあるとおり、本書は「噂の拡がり方」からネットワーク科学を考えてみよう、という本なので、噂が広がる実例が色々と紹介されている。1973年の話なので私は直接知らないが、間違った噂により取り付け騒ぎが発生した豊川信用金庫事件、ヤクルトとSARS(ヤクルトがSARSに効く、という噂)、サンダースの呪い(1985年の阪神優勝時に道頓堀に投げ込まれたサンダース人形の呪いにより、その後阪神が長期にわたって優勝できなかったとされる噂[サンダース人形が投げ込まれたのは本当])、ドラえもん最終回、口裂け女などなど。さらには歴史上の噂/情報伝達について資料から読み解くなど、様々な方面から「噂の拡がり方」が検証・紹介されていて読み応えがある。
そしてインターネットによる実例を紹介した上で、インターネットなどのネットワークが持つ特徴的なスケールフリー構造と、それによる構造的な利点と欠点など、ここから一気に話はネットワーク理論の抽象化モデルに移行し、数式も登場し出す。ネットワーク構造ごとの情報伝達速度の違いなど、著者にとってはここからが本領発揮というか色々書きたいことが山ほどあったのであろうことは理解できるのだが、もうちょっと本全体のレベル感として前半と後半のギャップを感じさせない流れにして頂けるとより読みやすいものになったのではないかとも思う。
最後に本書としてネットワーク科学を研究する著者からのメッセージで本書は締めくくられている。一極集中化の問題など、現在、そして今後も発生するであろうネットワークを要因とした様々な問題の解決のために、ネットワーク科学はさらに発展していく必要があるだろう。