書評:『医学のたまご』海堂尊/理論社

海堂尊の一連の作品群の中では少々異色な作品。子供向け?としてふりがなも多めにふられた、日経メディカルに連載された作品だということも理由としてはあるかもしれない。

医学のたまご (ミステリーYA!)

医学のたまご (ミステリーYA!)

僕は曾根崎薫、14歳。歴史はオタクの域に達しているけど、英語は苦手。愛読書はコミック『ドンドコ』。ちょっと要領のいい、ごくフツーの中学生だ。
そんな僕が、ひょんなことから「日本一の天才少年」となり、東城大学の医学部で医学の研究をすることに。でも、中学校にも通わなくちゃいけないなんて、そりゃないよ……。
医学生としての生活は、冷や汗と緊張の連続だ。なのに、しょっぱなからなにやらすごい発見をしてしまった(らしい)。教授は大興奮。研究室は大騒ぎ。
しかし、それがすべての始まりだった……。
ひょうひょうとした中学生医学生の奮闘ぶりを描く、コミカルで爽やかな医学ミステリー!

主人公の曾根崎薫くんは、先日書評を掲載した『ジーン・ワルツ』『マドンナ・ヴェルデ』の重要登場人物だったりもする。そして主要作品からは10数年の月日が流れた未来を描いているため、ちょっとした登場人物たちの未来像が描かれていたりしてちょっと興味深い。
作品としては、ミステリーというよりも研究としての医学の暗部に迫る作品。補助金獲得や論文掲載に関する無理に無理を重ねた熾烈な競争など、本書は本書で、医療現場とはまた違った様々な問題点を指摘する、フィクションでありながらもリアルな問題点を暴く作風は健在。ちょっと気分転換するために読むことができる1冊。