書評:『宇宙創成』サイモン・シン/新潮文庫

最初に断っておくと、本書、実は2006年8月に書評している『ビックバン宇宙論』の文庫化に伴うタイトル改訂版。…というわけで、読むのは2回目、ということになる。それでも最後まで読み込ませるだけの没入感を得られる著者の筆力には脱帽。訳者の力量もあると思うが、今でも世界最高のサイエンスライターはこの著者だと思う。

宇宙創成〈上〉 (新潮文庫)

宇宙創成〈上〉 (新潮文庫)

宇宙はいつ、どのように始まったのか? 人類永遠の謎とも言えるその問いには現在、ある解答が与えられている。ビックバン・モデル。もはや「旧聞」の感さえあるこの概念には、実は古代から20世紀末の大発見へと至る意外なエピソードと人間ドラマが満ちていた−。有名無名の天才たちの挑戦と挫折、人類の夢と苦闘を描き出す傑作科学ノンフィクション。『ビックバン宇宙論』改題。

宇宙創成〈下〉 (新潮文庫)

宇宙創成〈下〉 (新潮文庫)

  • 第4章 宇宙論の一匹狼たち
    • 宇宙から原子へ/最初の五分間/宇宙創造の神の曲線/定常宇宙モデルの誕生
  • 第5章 パラダイム・シフト
    • 時間尺度の困難/より暗く、より速く、より古く/宇宙の錬金術/企業による宇宙研究/ペンジアスとウィルソンの発見/密度のさざなみは存在するのか

人は宇宙を知るため、数限りない挑戦を続けていた。太陽中心モデルを作り上げたアリスタルコスから、相対性理論アインシュタイン、宇宙誕生の瞬間を発見したNASAに至るまで。決闘で鼻を失った天文学者がいた。世界トップクラスの天体画像分析チームを率いた「メイド」がいた。数々のドラマの果てに、ついに科学者たちは……。人類の叡智の到達点を、感動的に描く圧巻の書。

本書は人類が宇宙に思いを馳せ、研究対象としてその理解を深めていった経緯を辿った宇宙研究史ともいえる作品。宇宙論そのものも重要な要素なのだが、本書の主眼は宇宙に対する研究において重要な役割を果たした人々の研究経緯や葛藤などといった人間ドラマに置かれている。
地球中心説から太陽中心説へ、そして銀河、銀河を超えた宇宙空間、宇宙の起源…。宇宙に対する研究は別に知っていても知らなくても日々の生活に何も影響はない。単純に人間の知りたいという欲求の対象として純粋であること、それが宇宙に対して人間が興味を失わない理由なのかもしれない。
そうそう最後に、訳者の後書きによると「まもなく邦訳版が出る予定の次作 TRICK OR TREATMENT? 」とのことなので、代替医療をテーマとした次作が読める日も近そうだ。とっても楽しみ。