書評:『ブラックペアン1988』海堂尊/講談社文庫

うん、やっぱり海堂尊は医療ミステリーだ。本作も文句なしに面白い。「チーム・バチスタの栄光」よりも、もしかしたら本作の方が面白いかもしれない。チーム・バチスタにつながる登場人物たちの過去の姿が描かれていることもまた、面白さを増してくれる。

ブラックペアン1988(上) (講談社文庫)

ブラックペアン1988(上) (講談社文庫)

ブラックペアン1988(下) (講談社文庫)

ブラックペアン1988(下) (講談社文庫)

1988年、夜はバブル景気の頂点。「神の手」をもつ佐伯教授が君臨する東城大学総合外科学教室に、帝華大の「ビッグマウス」高階講師が、新兵器を手みやげに送り込まれてきた。「スナイプAZ1988」を使えば、困難な食道癌の手術が簡単に行えるという。腕は立つが曲者の外科医・渡海が、この挑戦を受けて立つ。

本作はチーム・バチスタが結成される遙か昔を舞台としている。田口、そして速水なども登場するが、あくまでも彼らは脇役。本作の主人公は「チーム・バチスタの栄光」ではすでに病院長の地位に上り詰めている高階、そして「ジェネラル・ルージュの凱旋」では医局長となっている世良だ。単体の作品としても十分楽しめるのだけれども、作品を超えた人物関係を把握しながら読むとより楽しめる。こちらのWiki「海堂ワールド」などを参考にするとよいかと思う。
大半の読者が医療従事者ではないだろうけれども、専門用語はバリバリと出てくる。そもそもペアンって何?という点については、その役割についてのエピソードが描かれているのでなんとなくわかるようになっているけれども、それ以外にも山ほど出てくる描写でもわからないこと多数。手術の内容や流れはわからないけれども、それでありながらグイグイと引き込まれるそのスピード感はさすが。手術などの医療現場だけでなく、製薬メーカーとの癒着なども生々しく描かれていて、リアルな世界観が形作られている。
本作の中にも、いくつか今後の作品につながるのであろう伏線が張られている。まだまだ桜宮サーガ(クロニクル?)は楽しめそうだ。