書評:『フリー からお金を生みだす新戦略 FREE The Future of a Radical Price』クリス・アンダーソン/NHK出版

2010年は書評からスタート。
本書の内容はもはやなんら斬新なことでもない。私たちがあたりまえのこととして体験していることを、体系的にまとめたに過ぎない。しかし、本書によってフリーの力がよりはっきりと見えてきたことは確かであり、本書の価値はこの潮流を「フリーを当たり前のこととは思えない」世代を含めた幅広い人たちに伝えることにこそあるのかもしれない。

フリー 〈無料〉からお金を生みだす新戦略

フリー 〈無料〉からお金を生みだす新戦略

なぜ、一番人気のあるコンテンツを有料にしてはいけないのか?
なぜ、ビット経済では95パーセントをタダにしてもビジネスが可能なのか?
あなたがどの業界にいようとも、<無料>との戦いが待っている。
それは可能性の問題ではなく、時間の問題だ。
そのときあなたは、創造的にも破壊的にもなり得るこのフリーという過激な価格を味方につけることができるだろうか?

無料のルール

  1. デジタルのものは、遅かれ早かれ無料になる
  2. アトムも無料になりたがるが、力強い足取りではない
  3. フリーは止まらない
  4. フリーからもお金儲けはできる
  5. 市場を再評価する
  6. ゼロにする
  7. 遅かれ早かれフリーと競いあうことになる
  8. ムダを受け入れよう
  9. フリーは別のものの価値を高める
  10. 稀少なものではなく、潤沢なものを管理しよう

世界的ベストセラー『ロングテール』に続いて米「ワイアード」誌編集長が放つ最新作!

本書自体が英語版は期間限定で電子版がフリーで提供され、オーディオブックとしても無料配布された。日本語版も1万限定で電子版がフリー配布された。それでも本書の売れ行きはどちらでもかなりいいようだ。戦略としては正しいように思う。フリー版を入手する人たちは前々から本書の刊行を心待ちにしていた人たちだ。本書のフリー版が公開されたのは、本書の書籍版刊行後にだ。おそらくフリー版を手に入れた人たちの大半はすでに書籍版も入手してくれているはずなのだから。そして、一部人気作家の小説などを除いて、書籍は大ヒットすることはあまりない。ならば無数に刊行される書籍の中の1冊として埋もれてしまわせないように様々な形でアピールする手段の1つとしてフリー提供は有効な方法と言えるだろう。フリー版の配布は書籍の売り上げを少しは減らすかもしれないが、それ以上のアピールにつながり、結果としてはより多くの売上に結びついているだろうからだ。
フリーを味方にすること、その方法は1つではない。どのやり方が正解なのかは、ある意味でやってみないとわからない。フリーエコノミーは21世紀の経済の主流となるのか、その潮流をどう掴むのか、Googleのやり方だけがその方法ではないのではないかと思う。2010年からの10年で、どんなやり方が登場してくるのか楽しみです。