書評:『螺鈿迷宮』(上)(下) 海堂尊/角川文庫

私が読んだ海堂尊作品としては、『チーム・バチスタの栄光』、『ナイチンゲールの沈黙』に続く3作品目。本作品は田口・白鳥コンビが中心となって展開される本シリーズではないが、共通の舞台(世間ではこの舞台を「桜宮サーガ」というらしいけど)、重なる登場人物たちで構成されている。

螺鈿迷宮 上 (角川文庫)

螺鈿迷宮 上 (角川文庫)

螺鈿迷宮 下 (角川文庫)

螺鈿迷宮 下 (角川文庫)

医療界を震撼させたバチスタ・スキャンダルから1年半、東城大学の劣等医学生・天馬大吉はある日、幼なじみの記者・別宮葉子から奇妙な依頼を受けた。「碧翠院桜宮病院に潜入してほしい」。この病院は、終末医療の先端施設として注目を集めていた。だが、経営者一族には黒い噂が絶えなかったのだ。やがて、看護ボランティアとして潜入した天馬の前で、患者が次々と不自然な死を遂げた!彼らは本当に病死か、それとも……。

本作品も当然ながら?著者お得意の医療ミステリーなのだけれども、展開はミステリーというよりもちょっとホラー(^_^;)。
医療の現場に現在も携わっている著者は驚異的なペースで作品を産み出し続けているが、作品毎の個性はしっかりと出しつつも根幹のテーマは共通の幹から派生したテーマを扱っている。本作は『チーム・バチスタ…』で描かれた生の最前線とはまさに対極にある死の最前線が舞台となっているが、それであっても著者が作品を通じて社会に対して訴えたい医療における問題が提起されていることにブレはない。
多少またこの展開か、といった感がないわけではないものの、各作品に個性がしっかりと出ていてグイグイと読み込ませられる点、そして登場人物や舞台などが絶妙にリンクしていて次々と読んでいっていて「ここでつながるのか」と思わせられる作品を超えた世界観の展開などは絶妙だ。
ハードカバーでは通勤本にならないので残念なのだが、文庫化された作品を今後も楽しみに読んでいきたいと思う。