書評:『チルドレン』伊坂幸太郎/講談社文庫

短編集、なのだけれども1冊の本にまとまるとみごとに長編ともいえる作品。各作品は2002年から2004年まで、2年間にわたって1作ずつ発表されていった作品なのに、話のつながりや時系列のリンクなどを作品に絶妙にリンクを仕込む伊坂幸太郎ワールドがぎゅっと詰まった、5作の短編が集まることによって珠玉の長編小説となった作品だ。

チルドレン (講談社文庫)

チルドレン (講談社文庫)

「俺たちは奇跡を起こすんだ」独自の正義感を持ち、いつも周囲を自分のペースに引き込むが、なぜか憎めない男、陣内。彼を中心にして起こる不思議な事件の数々−。何気ない日常に起こった五つの物語が、一つになったとき、予想もしない奇跡が降り注ぐ。ちょっとファニーで、心温まる連作短編の傑作。

本作がいわゆる「連作」となっている短編集であると知らずに読み始めたので、1作目で引き込まれたものの、2作目になって「ん?」と予想外の驚き。3作目、4作目と読み進めるに従って前の作品に仕込まれていた謎やその後の結果などが次第にリンクしていくことによって、世界観により引き込まれていくことになる。
本作の結末は陣内が過去をばっさりと切り離すシーンへと繋がっていくのだけれども、この順序で各作品が発表され、そして並べられている理由が何となくわかる、なんとも著者の策略に見事にひっかかった感じがしつつも読み終えた時の読了感はちょっとした爽快感ですらある。
これまで読んできた伊坂幸太郎作品の中で、ラッシュライフを逆転してNo.1かもしれないです。