書評:『レタス・フライ LETTUCE FRY』森博嗣/講談社文庫

森博嗣の作品の中でも、特に短編は面白いのだが難しい。非常に深く練られていて精密細工のように組み立てられているのだが、それを解き明かす情報は極端にそぎ落とされている。本に初心者向けも上級者向けもないと思うが、本作から森博嗣を読み始めるのはあまりお薦めしない。逆に森博嗣の長編、特にS&MシリーズやGシリーズばかり読んできたという人には、新しい森博嗣ワールドがここにはまっている。

レタス・フライ Lettuce Fry (講談社文庫)

レタス・フライ Lettuce Fry (講談社文庫)

西之園萌絵は、叔母を連れて白刀島までやってきた。加部谷と、この島の出身者である山吹、海月と合流し、夕食の席で、島の診療所に女性の幽霊が出るという噂話を耳にする。(「刀之津診療所の怪」)。ほか「砂の街」、文庫版に初収録の「ライ麦畑で増幅して」など、煌めく魅力を湛えた、全10作の短編を収録。

この1冊としては、S&MシリーズやGシリーズで活躍する西之園萌絵をはじめとした登場人物たちによる短編作品「刀之津診療所の怪」とその他9編といった感じなのだけれども、数ページ程度の作品から数十ページに渡る作品まで、短編といえども様々な作品が収録されていて、かつ世界観も作品毎にまったく異なる。短編とはいえ、いや短編だからこそ、何度も読み返し、文章の一文一文をしっかりと踏まえて読み進め、読み返すことによって作品に込められた味がしみ出してくる、そんな感じの短編集だ。