書評:『フィッシュストーリー』伊坂幸太郎/新潮文庫

伊坂幸太郎の真骨頂、緻密に構成された短編集。

フィッシュストーリー (新潮文庫)

フィッシュストーリー (新潮文庫)

最後のレコーディングに臨んだ、売れないロックバンド。「いい曲なんだよ。届けよ、誰かに」テープに記録された言葉は、未来に届いて世界を救う。時空をまたいでリンクした出来事が、胸のすくエンディングへと一閃に向かう瞠目の表題作のほか、伊坂ワールドの人気者・黒澤が大活躍の「サクリファイス」「ポテチ」など、変幻自在の筆致で繰り出される中篇四連打。爽快感溢れる作品集。

すーっと読んでも十分面白いのだけれども、じっくりと読んでみてもまた楽しめるところが伊坂幸太郎の作品力だ。単体の作品としても、ちょっとした伏線が上手く組み合わされていて「読ませる」仕上がりなのだけれども、やはりあの話の、あの登場人物が、こういうかたちでつながってくるのか、という部分も含めて、世界観の奥行きが出てきてより深く、作品を楽しむことができるようになる。
…といっても、読んでいる間は「あれ、この人は…」とかそこまで深く考えたりしながら読んでいるわけではない。後から、あーそういえば、といった感じだ。綿密に組み立てられた作品であると同時に、軽快なテンポ感を併せ持つことが、人気の理由だろう。