書評:『できそこないの男たち』福岡伸一/光文社新書371

生物と無生物のあいだ』が(おそらく)予想を超えた大ヒットとなった理工学部教授、福岡伸一氏の新しい新書作品。またまたやられた、とったかんじでとても面白い1冊だった。

できそこないの男たち (光文社新書)

できそこないの男たち (光文社新書)

地球が誕生したのが46億年前。そこから最初の生命が発生するまでにおおよそ10億年が経過した。そして生命が現れてからさらに10億年、この間、生物の性は単一で、すべてがメスだった。(本文より)<生命の基本仕様>−それは女である。本来、すべての生物はまずメスとして発生する。メスは太くて強い縦糸であり、オスは、そのメスの系譜を時々橋渡しし、細い横糸の役割を果たす"使い走り"に過ぎない−。
分子生物学が明らかにした、男を男たらしめる「秘密の鍵」。SRY遺伝子の発生をめぐる、研究者たちの白熱したレースと駆け引きの息吹を伝えながら≪女と男≫の≪本当の関係≫に迫る、あざやかな考察。

  • プロローグ
  • 第一章 見えないものを見た男
  • 第二章 男の秘密を覗いた女
  • 第三章 匂いのない匂い
  • 第四章 誤認逮捕
  • 第五章 SRY遺伝子
  • 第六章 ミュラー博士とウォルフ博士
  • 第七章 アリマキ的人生
  • 第八章 弱きもの、汝の名は男なり
  • 第九章 Yの旅路
  • 第十章 ハーバードの星
  • 第十一章 余情の期限
  • エピローグ

学者がみな、著者並みの文章における才能があったらテクニカルライターはみな廃業だろう。研究者の書く文章がどれもつまらないものだとはいわないが、価値ある内容を書きながらも文章がそれを伝え切れていない場合が多い。対して、著者が描く文章は伝える以上に読ませる。男と女の根本に最も迫りながらも、自らが男女の際につまづいた研究者たち−。研究と現実。そして物語。本書は新書というフォーマットをとっていながらもその内容は1冊の重畳な物語を読んだような読了感が得られる作品に仕上がっている。

アダムがその肋骨からイブを作りだしたというのは全くの作り話であって、イブたちが後になってアダムを作り出したのだ。自分たちのために。

生命の究極の仕組み。
それに迫れば迫るほど、生命を支える絶妙な仕組みと、その危うさの両面が見えてくるところがなんとも面白い。