書評:『生命保険はだれのものか〜消費者が知るべきこと、業界が正すべきこと』出口治明/ダイヤモンド社

本書は単なる書評対象に留まらず、多くの意味で読むことに価値のある1冊であった。そしてきっと、あなたにとってもまた読む価値のある本である可能性がとても高いのではないかと思う。1500円の本書は多くの人にとって、とても得るものが多い、安い買い物になるはずだ。

  • 第1章 日本の生命保険の問題点
  • 第2章 生命保険の基本〜保険料の構造
  • 第3章 生命保険の商品
  • 第4章 生命保険の販売チャネル
  • 第5章 生命保険の規制
  • 第6章 生命保険の運用はどうなっているか
  • 第7章 世界の生命保険
  • 第8章 生命保険の歴史から原点を探る
  • 第9章 生命保険を選ぶ時のチェックポイント

「生命保険は、普通の人の生涯で、住宅・マンションに次いで高価な買い物」(本書より)である生命保険はその必要性のわりに比較情報が少なく、判断基準が曖昧であり、そしてその商品が自分にとって適切なものであるのかどうかがわかりづらい。住宅・マンションに人それぞれの拘りがあるのと同様に、生命保険にもそれぞれの人の拘りに適した商品選択が行われるべきと言えるだろうが、現実には買う本人ですら自分に合った商品を選択しているのかはっきりとわからない場合が多いのではないかと思う。そんな状況において、本書は生命保険の購入者である私たちにとってガイド本たりえる1冊となっている。あるようでなかった、きっとニーズは少なくないのだろうが、日本の状況がなかなかこうした類の本が刊行されない状況を作り出していたといえるだろう。
[第2章 生命保険の基本]では、そもそも生命保険料がどのように算出されているかの基本が簡易に説明されている。そして著者は本書の中で、しきりに何度も繰り返して「生命保険は高い買い物ですから「比較して、納得して、購入」すべきものだと思うのです。」(本書より)と書いている。そんな著者はインターネット専業生命保険会社ライフネット生命の社長なのだが、本書で書いていたことを驚きの方法で実現してきた。なんと付加保険料比率(保険料の内、原価にあたる純保険料を除く経費部分)の公開に踏み切ってきたのである。これがどういうことを意味するのかと言えば、仕入れ原価を明らかにするに等しい。あなたの周りに、原価が明示されているお店などあるだろうか?
[第3章 生命保険の商品]では、複雑に思われる/あえてしている生命保険という商品の実体を明らかにし、そもそも生命保険によって対処すべきリスクは何なのかを再確認している。死亡保険・生存保険・医療保険の3つが基本となる組み合わせで生命保険はつくられているという説明を把握しておくだけでも、生命保険に対する理解度は大きく違ってくるだろう。
[第7章 世界の生命保険]は、単純に読み物として興味深い。世界各国において生命保険の構成内容はかなり異なっており、それぞれ特色がある。この章で紹介されている各国の生命保険の概要を知るだけでも、いかに日本の生命保険業界が抱える問題が大きいのかがよくわかる。
そして最後に[第9章 生命保険を選ぶ時のチェックポイント]。ここまでの様々な角度からの生命保険についての説明は全てこの章のためにあったといえるだろう。生命保険が果たす3つの役割(死亡保障→死亡保険・医療保障→医療保険・貯蓄保障→生存保険)について、どれだけ生命保険に依存するかについての考え方のポイント、それぞれのライフステージ(就職したら、結婚したら、子供が生まれたら)における生命保険の必要性と考え方について。読み終えてみるとそんなの当たり前だろと思えてしまうのだが、考えてみるとそんな当たり前のことすら明確にせずに生命保険を選択し、加入する人が多いことを考えると、本書の価値が明確に見えてくる。
学校でも、そして多くの人にとっては親からも教えてもらえないことだからこそ、生命保険については各自がしっかりと理解する必要がある。本書のような本や教育、情報の提供がより様々なかたちで行われる必要があるのではないだろうか。