あえて満員電車の中で読んでみた。
これまで当たり前だと思っていた電車の状況はベストには程遠く、ベターですらないことが本書を読むとよくわかる。
及第点には達している。人口の増加が頭打ちになっているという状況を考慮しても、これだけの大都市交通網を支えているのだからそのシステムは世界一だとも思う。しかし、改めて考えてみると、まだまだ出来ることはあるはずだ。
満員電車がなくなる日―鉄道イノベーションが日本を救う (角川SSC新書)
- 作者: 阿部等
- 出版社/メーカー: 角川SSコミュニケーションズ
- 発売日: 2008/02
- メディア: 新書
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本書の著者は元JR東日本社員の交通コンサルタントだ。第1章では、日々実感として感じている満員電車について、現状とその歴史について再確認がされる。人口を考慮に含めたとしても、現在の状況はかなり改善されたものにはなっていることが数字にも表れている。たしかに実感として、通勤ピーク時間から30分ずらして電車に乗るだけでも、だいぶマシな混雑状況だ(マシにはなるものの、混雑は混雑で、おそらく本書にもそうしたシーンが登場するが、外人から見れば異常な混み具合なのだとは思う)。
第2章については、現状の運行方法の課題とそれに対する著者の改善案が興味深い。単純に「なるほど、そういう仕組みだったのか」と思える、意外とよく考えられた結果としてある現状の鉄道システムに対して、著者はさらに改善すべき事項を挙げ、案を提示する。どの方法もそれなりの費用と技術の改善が必要だが、夢物語として片付けてしまうほど非現実的ではない。今後の電車の運行における改善プランとして、十分価値のある提案がなされている。
第3章の運賃に関する部分こそが本書最大のポイント。私が最も本書の価値を感じる部分だ。運賃の支払いがICカード化された現在だからこそ、莫大な投資をすることなく実現可能な「改革」案だ。受けるサービスレベルに応じた運賃の差別化、高齢者や障害者への補助を目的とした個別の助成制度、長期契約と引き換えでの割り引き適用などなど、運賃を使ったイノベーションはそれほど時間をかけずに実現可能であり、差別化運賃の導入に対する理解も得やすい状況はすでに整っているといえるだろう。寡占業界であるからこそ、得られるサービスに対応した運賃の差別化はぜひ導入してもらいたいと思う。
第4章は制度面での話。なかなか面白かったり興味が持てたりする部分ではないのだが、それでも一読の価値はある。道路特定財源に関する話題など、タイムリーな要素も盛り込まれている。車が悪くて電車がよいとか、一方的に切り捨てているわけではないのだが(とはいえ、著者は鉄道コンサルタントとして鉄道のよい点をアピールする立場ではあるのだが)、費用負担の面についてや様々な要素が絡む交通ライフスタイルについて考えていく上で把握しておくべき項目だ。
満員電車の改革はある程度の長期的なスパンが必要な課題だ。しかし、本書で様々な案が提示されているように、不可能ではないし、何十年も実現までに時間のかかる問題だというわけでもない。
テクニカルな面以外にも、社会基盤としての電車にも、まだまだイノベーションの余地があるのだな、ということが改めてよく伝わってくる1冊。