書評:『おもてなしの経営学』中島聡/アスキー新書055

月刊アスキーの連載を読んでいた人も、対談部分を読むためだけにでも買う価値のある1冊。

おもてなしの経営学 アップルがソニーを超えた理由 (アスキー新書)

おもてなしの経営学 アップルがソニーを超えた理由 (アスキー新書)

表紙に著者の肩書きが名前の下に小さく書かれているのだが、そこには現職であるUIEvolution CEOとではなく、Windows,Internet Explorer設計者、と書かれている。たしかに、より多くの人に興味を持ってもらい、手にとってもらう必要のある著者紹介としては、誰でもが知っているWindows, Internet Explorerなどの名前を出した方がよいだろう。それに、それは事実であるわけだし。

  • はじめに
  • 第1章 おもてなしの経営学
    • 現代用語の基礎知識』に収録された「おもてなし」
    • ユーザー--インターフェイスとユーザー--エクスペリエンスの違い
    • なぜグーグルはYouTubeを買収しなければならなかったのか?
    • ソウル(魂)のあるものづくり
    • エンジニアの美学と床屋の満足
    • コンシューマー--エレクトロニクス業界の将来像
    • 任天堂のものづくりの姿勢に学ぶ
    • iPhoneのどこがそんなに革命的なのか
    • アップル--コンピューターが社名を「アップル」に変更した理由
    • アップルはApple TVでいったい何を実現しようとしているのか
  • 第2章 ITビジネス薀蓄
  • 第3章 特別対談
  • PartI 西村博之 ニコニコ動画2ちゃんねるのビジネス哲学
    • ひろゆきへの見方が一変する!? 『2ちゃんねるはなぜ潰れないのか』
    • ウィンドウズを使い続けると遅くなるのは私の責任!?
    • グーグルの存在はマイクロソフトにとって脅威ではない?
    • 朝も夕方も駐車場がガラガラのマイクロソフトは是か非か
    • 誰でもまねできるグーグルに将来は見えない?
    • マイクロソフトの開発チームを引き締めていた副社長の存在
    • グーグルが目指すのはインフラ企業、もしくは何も考えていない?
    • インターネットの世界とかけて歌舞伎町と解く。その心は?
    • ニコニコ動画が大ヒットした理由は「たまたま」
    • ニコニコ動画のアクセス急増から見える日本の通信政策の問題点
    • ニコニコ動画の次の展開はハードディスクレコーダー
    • 広告に頼らず、売り抜けせず低く回し続ける2ちゃんねる
    • 大ヒットの前提は継続すること、継続の前提は面白いと思えること
    • 立役者になるメリットがない日本に住み続ける理由
  • PartII 古川 享 私たちがマイクロソフトを辞めた本当の理由
  • PartIII 梅田望夫 「ギーク」「スーツ」の成功方程式
    • ギーク--スーツの中間層が存在しない日本のソフトウェア産業
    • 恐怖の中でビジネスをたたき込まれる200人のゲイツ--クローン
    • エンジニアとしての実力がものを言う弱肉強食の世界
    • ソニーiPodを作れなかった理由は「中間層」の不在?
    • 日本のソフトウェア産業に顕著なギークとスーツの憎み合
    • 「日本発世界」産業の勃興でスーツとギークの中間層は生まれる
    • 産業が伸びてこそ「起業のインフラ」は整備される?
    • インターネットサービスの新しい生態系が切り開く未来
    • アンドロイドはグーグルの将来を掛けた一大勝負?
    • シリコンバレーの多産多死のメカニズムを社内で実現したグーグル
    • ブログは新しい「私塾」の始まり
    • 人生の最大の失敗をプラスにつなげる方法

この目次をざっと眺めただけでも、興味がそそられないだろうか。第1章、第2章の非常にわかりやすく、説得力のある読みやすい文章とがらっと異なり、第3章の対談は対談収録形式であるにもかかわらず、非常に濃い。特に"Part II 古川 享 私たちがマイクロソフトを辞めた本当の理由"はある意味で創業期のマイクロソフトを知っている2人だからこその内容となっており、非常に熱い。対談相手として、西村博之、古川亨、そして梅田望夫というかなり濃い、それでいて志向性はまったく異なる3人が選ばれている点も本書の魅力だろう。
書評とタイトルを打ちつつ、本書は書評しても仕方がない。きっとこの本をすっと受け入れることができる人は多いだろうし、著者のBlogやこれまで公開されてきた文章などを読んだことがない方であればよりいっそう、目からうろこの内容もきっとあるはず。目次の内容に少しでも興味が持てるのであれば、読んでみることをオススメする。