書評:『宇宙旅行はエレベーターで Leaving the Planet by Space Elevator』ブラッドリー・C・エドワーズ、フィリップ・レーガン/ランダムハウス講談社

宇宙への入り口のおそらく本命となるであろうスペースエレベーターの一般読者向け書籍。というか、専門性を抑えたエグゼクティブサマリーといってもよいドキュメントとして本書は仕上がっている。エグゼクティブサマリーが作られる段階とはつまり、あとは決断するだけのフェーズに至っているということを意味する。
いくつかの乗り越える必要がある課題はあるものの、解決の糸口はすでに見えている課題のみであり、技術的な面における課題についてはほぼ目処が付いている。あとは「いつ、だれが」一歩を踏み出すか、という段階にすでに至っているということだ。政治的な課題などといった技術面以外の複雑に絡んだ要素の解決は難しいだろうが、きっとそうした部分についてもそう遠くない未来には解決されるだろう。なぜなら、そうした課題を乗り越えてでもスペースエレベーターを実現することによって広がる世界こそ、人類が次に目指すべきフロンティアだからだ。

宇宙旅行はエレベーターで

宇宙旅行はエレベーターで

本書は1/3がスペースエレベーターについての解説、1/3がスペースエレベーターを取り巻く課題に対する解決策や対応策の提示、そして1/3がスペースエレベーターが実現されることによって人類が獲得するであろう世界について描かれている。スペースエレベーターはもはや技術的な課題を検討する段階から、実現のために1つ1つ阻害要因を取り除いていく段階に至っているといえるだろう。

この目次からも、本書は宇宙エレベーターそのものについてよりも宇宙エレベーターを取り巻く様々な要素についてより多くの紙面を割いていることがわかるだろう。多くの人が遠い未来の話だと思っていたり、その実現性を信じなかったりしているが、すでにスペースエレベーターの実現は目の前にせまっている。きっと、私が生きているうちにスペースエレベーターは現実のものとなり、宇宙はより開かれた場所となるだろう。
スペースエレベーターの地球側における基地となるアース・ポートの候補地や、スペースエレベーターの長さ、静止軌道に配置されるジオ・ポートの規模やケーブルの先端に用意されるロケットの発着場として使用されるペントハウス・ステーションなどについてのかなり具体的なプランが提示されている。さらにそれだけにとどまらず、発生しうる問題や、問題が発生した場合を想定した対応策、地球の場合だけでなく、月や火星にスペースエレベーターを設置する場合の課題についてまでがすでに具体的に検討されている。
宇宙飛行士にならずとも宇宙にいける時代は目の前だ。20世紀初頭、自動車や飛行機がこれだけ一般化するとはきっとほとんどの人が思っていなかったに違いない。ゆえに、21世紀初頭の現在、スペースエレベーターがあたりまえになる状況を想像できないことと、スペースエレベーターが現実のものになることが目前であることは、矛盾しない。ぜひ予想を超えた展開を迎えて欲しいと願う。だって、宇宙に行ってみたいからね、やっぱり。