書評:『ジーン・ワルツ』『マドンナ・ヴェルデ』海堂尊/新潮社

今だからこそ、この2冊は連続して読むべし。

ジーン・ワルツ

ジーン・ワルツ

マドンナ・ヴェルデ

マドンナ・ヴェルデ

なぜなら、2冊は1つのストーリーの裏表だから。どちらから読んでもかまわない。刊行された順番的には、最初に「ジーン・ワルツ」、続いて「マドンナ・ヴェルデ」。逆に読んでも全く問題ないが、どちらかといえば刊行順、ぐらいだ。
深刻な医療問題を扱っていながら、ここまで惹き付けられる著者の作品の魅力は何なのだろう。緻密に計算されたストーリー展開、魅力的で個性的な登場人物たち。医療現場が抱える、医学的な学問としての側面と、人間の尊厳やプライバシーなどの哲学的な側面、そして複雑に絡みつく政治的な側面、それらが絶妙にストーリー展開の中に組み込まれていることがリアルな現実とフィクションとしての小説の境界を意識させてくれることも重要なキーといえるかもしれない。
この2冊は出産をテーマにしている。フィクションでありながらも、現実の産科医療の現場が抱える問題をリアルに描いているともいえる。理性と本能の境目にある妊娠・出産というプロセスに関わるからこそ、見えてくるものがあるのかもしれない。