書評:『創るセンス 工作の思考』森博嗣/集英社新書0531C

自由論『自由をつくる 自在に生きる』に続く新書シリーズ?第2弾。

創るセンス 工作の思考 (集英社新書 531C)

創るセンス 工作の思考 (集英社新書 531C)

かつての日本では、多くの少年が何らかの工作をしていた。しかし、技術の発展で社会が便利になり、手を汚して実際にものを作るという週刊は衰退し、既製品を選んだり、コンピュータの画面上で作業することが主になった。このような変化の過程で失われた、大切なものがある。それは、ものを作ったことのない人には、想像さえつかないものかもしれない。
「ものを作る体験」でしか学べない創造の領域、視覚的な思考、培われるセンスとは何か。長年、工作を続けている人気作家が、自らの経験を踏まえつつ論じていく。

メディアへの露出はしないとしつつも、本シリーズは例外なのか、著者があまり好きではないらしい本のオビに著者の写真が。前作もなかなか読み応えがあったけれども、本書の方が森博嗣自身の想いがこもっている気がしてより読み応えがあった。著者の工作好きは知られたことだけれども、その工作に対する思いそのものをじっくりと綴った作品は本書が始めてかもしれない。

簡単に結論を書いてしまえば、「上手くいかないことが問題」なのではなく、「上手くいかないことが普通」なのだ。「こうすれば上手くいく」と教えたこと、また、それを鵜呑みにしたことこそが問題の根源である。
そのことに気づいていない人が多いようなので、本書を書こうと思った。少しでも沢山の人、特に技術に携わる人に、自分が知らないということ、未熟であるということに気づいてほしい。そう認識して進めれば、本当の技術が必ず育ってくる、と信じているからである。

私は工作少年ではなかったけれども、空気ポンプエンジンの車とか、ソーラーモーターの車とか、輪ゴム動力の船や潜水艦ぐらいなら作った。でもあまり1から作ったことはなかったし、学校で学んだことを超えたことに挑戦したこともあまりなかった。どういう環境で育つかとか、親がどういう子育てポリシーを持っているかとかいうこともかなり大きな影響を与えるかとは思うけれども、自分自身としても、もうちょっと色々やってみれば良かったなとは思う。子供だからできないことはあるかもしれないけれども、自分が思っていたよりもずっと色々なことが、やってみていればできたはずだから。そして今も、きっともっと色々なことができるはずだ。
どんなにセンスがなくても、創れば一歩ずつセンスは磨かれていくはず。なんだかんだ色々な理由を挙げてできないというのは簡単だろうけれども、創りたいという気持ちを奮い立たせてくれるという意味で、本書は単なる読書以上の価値がある1冊だったと思う。あとはその気持ちをちゃんと行動につなげるかどうか、自分次第なのだけれども。