IBM eX5は技術的には興味深いけど…

IBMが同社のx86/64サーバ向けに実装してきたEnterprise X-Architectureの第5世代"eX5"を発表しました。これまでEnterprise X-Architectureはハイエンド向けサーバのみに実装されてきましたが、今回のeX5はミドルレンジのサーバ*1にまでその対象を広げてきています。
eX5最大のウリはサーバ向けの1U拡張メモリユニット"MAX5"でしょう。32個のメモリスロットを持ち、16GBメモリカードを使えば合計で512GBのメモリをサーバに対して増設できることになります*2

x86/64サーバにおける独自メモリ拡張技術としては、4枚のメモリを1枚のメモリとして扱うことによって大容量メモリの実装を可能にしたCiscoのUCSがありましたが、こちらも実装方法はだいぶ異なりますがコンセプトは同じ様なものといえるでしょう。
Enterprise X-Architectureとしては、これまでも複数ノードを連結して1台のサーバとして使用する技術を実装していましたが、MAX5によりCPUソケット数を増やさずにメモリだけを増やすパターンを用意してきたということになります。

「プロセッサとメモリの進化に大きなギャップが生まれている。この10年でプロセッサの処理能力は急速に向上したが、メモリ容量はその進化に追いついていない。そのため、いくらプロセッサが速くても、メモリが一杯になってしまうと処理が進まず、サーバーの使用率は上がってこない」

http://enterprise.watch.impress.co.jp/docs/news/20100303_352461.html
…という考え方にはたしかに同意できます。最近のサーバの使われ方はWebサービス用にしろ仮想マシン用にしろ、メモリを潤沢に要求する(逆に言えばメモリさえあれば高いコストパフォーマンスを発揮できる)タイプの使われ方が増えてきています。CPU側についてはクロック数的にはたいして伸びていないように見えても、コア数の増加による並列処理性能や各種処理のハードウェア実装による処理能力は向上し続けていますので、CPUソケット数は増やさずともより多くのメモリを実装すればサーバ当たりの処理能力は確かに高めることができるはずです。
しかし、ある意味でeX5テクノロジーの適用範囲をミドルレンジまで広げてきたことは、分散化によるスケールアウト志向からハイエンド化によるスケールアップ志向への揺り戻しと言えるかとも思いますが、はたしてこの方向性が市場に受け入れられるのかどうかについては実際に製品がローンチされて今後の状況が見えてきてからの話です。スケールアップ型におけるライセンスコストや消費電力量の節減などといった点はたしかに一理あるなとは思うのですが、過度な集約・集中によるハイリスクや独自技術への依存などの面についてもしっかり認識して判断していくべきでしょう。
個人的には、CPU性能が向上したのであればサーバといえどもこれまでのようにマルチソケットにする必要性は低下するわけで、であればあえてスケールアップはせずに逆により単純化し、1ソケット+それなりのメモリ量が搭載できるサーバをより大量に並列に並べるスケールアウトをさらに推し進めるかたちもまた1つの方法なのではないかと思います。ライセンスコストについてもCPUソケットライセンスならば1ソケットサーバx8台だろうと4ソケットサーバx2台だろうとライセンスコストは同じですし、消費電力についても、今後不要サーバは停止してしまう(もちろん必要になったら起動させる)様な技術がより受け入れられていけばそれほど問題にはならないのではないでしょうか。
以前こちらのエントリーでも書いたように、今後サーバがスケールアップしていくにしろスケールアウトしていくにしろ、その使われ方は単体ではなく群体としての考え方になっていくのではないかと思います。おそらくそれぞれの事業内容やスタイルに合った方式があるはずで、スケールアップとスケールアウトの間で揺り動いていたサーバのトレンドはここに来て、その両面が両立する流れに変わっていくことになるのかもしれません。

*1:x3850 X5, x3690 X5, BladeCenter HX5が現時点で発表されているeX5対応ラインナップ

*2:16GBのメモリカードを32枚も用意したらいったい幾らなのかは知りませんけどね…