書評:『小さなチーム、大きな仕事〜37シグナルズ 成功の法則』ジェイソン・フリード&デイヴィッド・ハイネマイヤー・ハンソン/ハヤカワ新書juice011

ハヤカワ新書juiceはその他の新書よりもちょっと高め(本書も1100円だ)なので、深い内容と読み応えのあるボリュームを期待してしまうのだけれども、本書はわずか185ページ。そういう意味で購入を悩んだのだけれども、新書ではないかたちで出版されていたとしても買ったであろうということで購入することに。結論から書けば、本書の価値は余計なものを一切省いた、そのシンプルさにこそあった。

小さなチーム、大きな仕事―37シグナルズ成功の法則 (ハヤカワ新書juice)

小さなチーム、大きな仕事―37シグナルズ成功の法則 (ハヤカワ新書juice)

会社は大きいほうがいいなんて幻想だ。今日では誰でも自分のアイデアをもとにビジネスを始められる。高価な広告枠、営業部隊、オフィス、いや、会議も事業計画もいらない。昼間の仕事をしながら、初めは週末の数時間を費やすだけで十分だ。小さな所帯で、シンプルに、迅速に、臨機応変に−それで僕らは成功している。二つの大陸に散らばった十数人のメンバーだけで数百万人のクライアントを抱えるソフトウェア会社37シグナルズは、その優れた製品だけでなく、常識破りな会社運営法でも、業界観測筋の目を釘付けにしている。その創業者とカリスマ開発者が、いまのビジネスに真に必要な考え方を示す。

そう、本書はボリュームがないこと、内容が絞り込まれていることに価値があるのだ。これだけ小さな会社で、これだけ知られている会社も少ない。彼らのやり方は普通ではないかもしれないが、やり方として突飛なものではないし、逆に徹底的にシンプルだ。そのビジネスにおけるスタンスは、本書の執筆においてもそのままだ。

  • 見直す

悲観したり絶望したりするのではなく、他人になんと言われても気にせずに。将来を計画するのではなく今すべきことをする。

  • 先に進む

必要だと思うから、自分が必要だから作る。なんだかんだいわずに、実際に作る。拘りを持って。自分たちでコントロールできる様に、継続的に。

  • 進展

制約されているからこそ、コアとなる部分に集中して枝葉に囚われない様に。何かを加えるのではなく、よりシンプルに、何がコアなのか常に意識して。ブームや流行に流されない、常に必要とされるものを、今、提供することにこそ価値があり、継続性がある。

  • 生産性

製品は仕様でつくるのではない。やってみること、改善していくこと、やめるべきことは何か。いかに生産性を確保するか、遠くの目標ではなく、今必要な課題に取り組むこと。十分睡眠を取って、小さなゴールを積み重ねていくことこそがシンプルかつ最も優れた方法だ。

  • 競合相手

競合を意識しすぎることなく、競合にはまねできない要素を組み入れていく。競合に対抗していくのではなく、スタンスを明確にしていくこと。ぶれないポジションを確立すること。競合をみている必要はない。

  • 進化

顧客は大切だけれども、顧客のために自らのポジションがぶれてはいけない。顧客の成長によってニーズが変化したからと行って、自分たちの製品を合わせていってはいけない。どういうタイプの顧客をターゲットにしているのか、明確であり続ける必要がある。

  • プロモーション

小さいからこそできることが沢山ある。使ってくれる人も大切だけれども、関心を持ってくれる人たちをつくろう。お金をかけなくても様々なやり方で知ってもらうことができる。知ってもらうよりも、知りたいと思ってもらうことが大切。積極的に知ってもらう機会を提供しよう。コツコツと、すべての対外的な活動はマーケティングそのものだ。

  • 人を雇う

まずは自分でやってみること。どんな人が必要なのかが身をもって理解できる。どうしても必要だから人を雇うこと。会社は人と人との関係によって成り立っている。履歴書や経験年数、学齢などは重要ではない。管理する人ではなく、自分を管理できる人を雇おう。場所や国に囚われる必要はまったくない。人を雇う際には、やはり実際にやってみてもらうことが大切だ。

間違いは積極的に伝えるべきだ。正確に、そしてそれ以上に迅速に。ユーザの立場に立って謝り、誰もがユーザの声を直接聞ける様にするべきだ。

  • 文化

文化は作るものではない。予測に対応する必要はない。小さいからこそ、素早く、機動的に。人は制限したところで生産性は向上しない。リフレッシュしたり、集中したり。休息は大切だ。その規則は本当に必要?それは、本当に今すぐやらないといけないのか?

この本の最後には、「この本を読んでくれてありがとう。」と書かれている。これが大切だと思う。