書評:『「日本で最も人材を育成する会社」のテキスト』酒井穣/光文社新書439

2008/3/8にエントリーした『はじめての課長の教科書』2008/7/19にエントリーした『あたらしい戦略の教科書』に続いて、著者の作品のエントリーは3作目

「日本で最も人材を育成する会社」のテキスト (光文社新書)

「日本で最も人材を育成する会社」のテキスト (光文社新書)

誰でも最高のマネジメント知識へアクセスしうる今日においては、いかにモノやカネを動かしたところで、競争優位は確保できない。ヒトこそが企業経営に残された最後の開発ターゲットである。
本書は、ベストセラー『はじめての課長の教科書』の著者が、注目企業での実務経験に基づいて、人材育成プログラムの論理的な背景と、プログラム導入の実践上のポイントを概説するものである。
経営の行き詰まりに直面している経営者や人事部、さらには自らの成長戦略を考える若手のビジネスパーソンにとって有益なヒントになるだろう。

人材育成や人材評価についての本はもともとあまり読まないのだけれども、本書は著者の本ということで楽しみにしていた一冊。著者が目標にしているのであろう「日本で最も人材を育成する会社」をタイトルに掲げるだけに、期待通り、期待以上の内容だった。この類の本は理想論に走ってしまったり、腑に落ちない説明に終始するものが多くて読まないのだけれども、本書は理想をいかに現実に落とし込むか、について著者自身の取り組みが紹介されているので
わかりやすい。

  • 第1章 何のために育てるのか(人材育成の目的)
  • 第2章 誰を育てるのか(育成ターゲットの選定)
  • 第3章 いつ育てるのか(タイミングを外さない育成)
  • 第4章 どうやって育てるのか(育成プログラムの設計思想)
  • 第5章 誰が育てるのか(人材育成の責任)
  • 第6章 教育効果を測定する
  • 第7章 育成プログラムの具体例

会社にとってヒトの開発が重要な要素となるのと同時に、社員にとってもヒトをモノやカネと同じ単なるリソースとしては考えずに「育てる」対象とする会社に巡り会えるかどうか/選び取れるかどうかは、職務内容と同じぐらい重要な要素といえるかもしれない。会社を選ぶ基準として、やりたい仕事に就けるかどうかと合わせて、人材育成をどう考え実践している会社なのかどうかを重視する必要があるだろう。建前だけでなく、本気で人材の育成を企業の成長と考えている会社かどうか。経営や人事ではない立場で会社に関わるからこそ、本書を読むことには価値があるのではないかと思う。
考えてみると、会社側といっても結局はヒトだ。経営や人事に携わるヒトたちが、会社の人材育成のかたちややり方を決めている。会社が育成ターゲットを選定するとは、ヒトが考え抜いた上での判断だ。だからこそ、私たちもまた、育ててもらうとか、育てられるとかではなく、どう会社の育成プログラムを活用していくかというスタンスで、向かい合うべきかとも思う。
第4章の「どうやって育てるのか」・第5章「誰が育てるのか」、そして第6章「教育効果を測定する」については、これまで最も明確な文章にはならずにいた部分ではないか。非常に感覚的な部分で、基準や判断を明確にすることは難しい。さらにそのやり方や成功例は様々。パターン化もいろいろとされてきたのだろうけれども、王道のようなパターンがあるわけではないだろう。でも、だからこそ評価する側は基準を明確にする努力を継続してもらいたいと思うし、評価される側も積極的に育成に関与していくべきだとも思う。
究極のところ、人材を育成することに真剣な会社には、すぐれた人材がより多く集まるのではないか。そしてその結果、より育成が効果的なものとなり、さらに会社も人材を育成することに力を入れていく。この好循環を生み出すことができている会社は強くなっていくだろうし、ヒトは限界なく成長していくだろう。