FCoEはその名の通りFCの拡張です〜iSCSIかFCoEか、という議論は無意味では?

2010年は10Gbpsネットワークが本格的に普及し始める年になりそうです。サーバ向けの10Gbps NICも発売されていますし、全ポートが10Gbps対応したネットワークスイッチもだいぶ安価なものが登場し始めています。個人的には、10Gbpsはまずネットワークストレージ向けとして導入が始まっていくのではないかと思います。個別サーバで1Gbpsを超える帯域を必要とするシステムはまだまだ多くないかもしれませんが、多くのサーバからのI/Oを受けるネットワークストレージでは10Gbpsに対応することのメリットは充分あるといえるためです。
ネットワークストレージのインターフェイスが1Gbpsから10Gbpsへとステップアップすることにより、現行8Gbpsが主流となっているFCに対して規格上は逆転することになります*1。もちろん実際の通信速度はプロトコルやフレームサイズなどの仕様や規格における通信の信頼性(再送仕様など)次第ですので単純に比較することに意味はあまりありませんが、少なくとも土管としてのサイズはかなり広がることになります。


シスコシステムズ出典の図をImpress Business Mediaより
企画倒れになりそうなFCIPやiFCPに対して、iSCSIは"IP-SAN"として次第にエンタープライズ向けとしても受け入れられつつあり、Ethrnetを用いたブロックレベルプロトコルの事実上の標準仕様となっています。ソフトウェアイニシエータを用いればiSCSI通信のためのインターフェイスは普通のNICで済みます。iSCSIはただのTCP/IPパケットですのでネットワークスイッチも特別な仕様や設計を必要としません*2。ジャンボフレームやVLANなどといったEthernet技術はすべて使用可能です。CPUに負荷をかけないiSCSIハードウェアイニシエータはFCのHBAとほとんど変わらないぐらいの価格がしますが、ハードウェアイニシエータを使えばiSCSIブートなどFCと同等の機能を使うこともできます。一部ハイエンドNICではiSCSIオフロード機能も搭載されていますので、これで充分といえるかもしれません。


シスコシステムズ出典の図をImpress Business Mediaより
FCoEはEthernetを前提としていますが、TCP/IPを使用していません。EthernetフレームとしてL2レベルでは同じ仕組みが用いられていますが、データペイロード部分のサイズは2112byteとなるなど仕様が大きく異なるため、FCoEに対応したネットワーク機器を用いる必要があります*3。サーバ側・ストレージ側それぞれのインターフェイスとしてもCNA(Converged Network Adapter)が必要です*4。FCoEはL1/L2レベルではEthernetですが、Fibre Channel over Ethernetというその名の通りプロトコルとしてはFCそのものです。管理者に求められる知識・スキルとしてもZoningやLUNマスキングなどFC SANに関する仕様を理解していることが前提となるといえます。FCoEはiSCSIにとってかわる、というよりも当面はFCによるネットワークを拡張するかたちで用いられることになるのではないかと思います*5。その上で、ストレージ通信とネットワーク通信を統合するインターフェイスをCNAに一元化することによる物理レベルの配線統合(アダプタ・配線の削減)というメリットと合わさることにより、普及が進んでいくことになるでしょう。


※NetAppより

いずれにしろ、これまでネットワーク通信とストレージ通信は別の市場として存在していましたが、FCoEの登場はその垣根を越える動きを市場にもたらすことになるでしょう。Intel, Broadcom, Qlogic, Emulex, Brocadeなどはこの新しい市場において熾烈に争うことになりそうです。また、サーバ・ストレージ・ネットワークはより渾然としたものとなっていくということでしょう。物理的な構成と論理的な構成の両面で把握していかないと、ITインフラの設計・運用は行えなくなっていきます。仮想化技術によってサーバとネットワークの境界はかなり曖昧なものとなりつつありますが、FCoEはさらにネットワークとストレージの境界を曖昧にしてしまいそうです。餅は餅屋などとはいっていられなくなり、餅と具材と汁それぞれを正しく準備して美味しいお雑煮が作れないとインフラの仕事はできなくなるかもしれません(^_^;)。

では来年も色々ありそうな予感がしますが、皆様良いお年を!今年1年、色々とお世話になりました。
…まだ更新するかもしれませんけどね

*1:FCも10Gbpsへの拡張が予定されていますが…

*2:最近はQoSの機能を用いてiSCSIフレームを優先処理する仕組みを持ったスイッチもありますが

*3:単純にジャンボフレームをサポートするだけでFCoEフレームを処理できるわけではありません。10Gbpsインターフェイスを前提として、Data Center Bridging Ethernet拡張機能(サービス・クラス、輻輳制御、管理など一連の拡張機能を含む)をサポートしている必要があります。

*4:将来的にはiSCSIと同様にソフトウェアイニシエータ的な仕様も登場すると思いますが

*5:16Gbps FCの仕様が固まるまでにFCoEがどれだけ普及するかがポイントになりそうです