書評:『アメリカ型成功者の物語〜ゴールドラッシュとシリコンバレー』野口悠紀雄/新潮文庫

2005年刊行の『ゴールドラッシュの「超」ビジネスモデル』の改題文庫化版。

アメリカ型成功者の物語―ゴールドラッシュとシリコンバレー (新潮文庫)

アメリカ型成功者の物語―ゴールドラッシュとシリコンバレー (新潮文庫)

1848年、地の果てカリフォルニアで黄金が発見された。報が伝わるや一攫千金を狙って金採掘者が殺到したが、彼らは結局落ちぶれた。成功したのは駅馬車業者、衣料品屋、銀行家、そして鉄道家だった。150年前のゴールドラッシュと、IT産業の起業家が輩出するシリコンバレーとの共通点を示しつつ、途方もない金持ちが誕生する仕組みを明らかにする。

本書は今、この時点においても読む価値のある一冊。IT産業は栄枯盛衰がまさにドッグイヤーなので本書に書かれている企業についても現在の状況は千差万別なのだが、それはそれとしてシリコンバレーという特殊な「場所」を産み出したルーツとしてのゴールドラッシュと、そこに繋がる共通点や歴史のつながりを解き明かしていく展開は単なるシリコンバレートーリーとは異なる、興味深い分析といえる。
可能性への挑戦、結果に結びついた者と敗れ去った者のストーリーから見えてくるもの、そしてゴールドラッシュとは何だったのか、さらにはシリコンバレーとは何なのか、本書は歴史書でもITサクセスストーリーでもない、必然としての成功者を産み出す土壌はどのように築き上げられているのかを解き明かす、すぐれた研究レポートだと思う。