書評:『大人問題』五味太郎/講談社文庫

本書に記された、絵本作家である五味太郎さんの言葉は意味深い。子供に対してではなく、大人に対しての、五味太郎さんのことば。そこには五味太郎さんであるがゆえ考えさせられることばが並んでいる。

大人問題 (講談社文庫)

大人問題 (講談社文庫)

絵本では絵はもちろん主役だが、ことばも同時にとても大切だ。少ない文字数だからこそ、逆にそのことばにこめられた思いは深い。そうしたことばを紡ぎだしている五味太郎さんが文章を主役として書いた本書は、文字は多いが、こめられた思いは同様に強い。

  • とにもかくにも心穏やかではない大人たち
  • もうとっくにすっかり疲れきっている大人たち
  • なんだかんだと子どもを試したがる大人たち
  • どうしても義務と服従が好きな大人たち
  • どんなときでもわかったような顔をしたい大人たち
  • 他をおとしめても優位を保ちたい大人たち
  • いつもそわそわと世間を気にする大人たち
  • よせばいいのにいろいろと教えたがる大人たち
  • それにしても勉強が足りない大人たち
  • いつのまにか人間をやめてしまった大人たち

本書のなかから一部のことばを紹介することはとても難しい。ぜひ、書店でパラパラっと立ち読みしていくつか目にとまった文章を読んでみて欲しい。

ぼくは子どもをとらえるときに、「新人」「ルーキー」という言葉でとらえるのが好きです。彼ら新人、ルーキーをずっと見ていると、なんかとても楽しいのです。自分もそうだったんだけど、「こいつ、これから何をするんだろうか」という感じの楽しさ。あるいは「いつ化けるかな」という一種の緊張感。そういう見方、とらえ方、つき合い方、この社会にはあまりにも少ない気がします。
新しい人間、ルーキーが次々に出てくる一方で、お爺さんお婆さんはだんだん往生していく、その自然の流動がスムーズに行けばいいんです。大事なのは、その流れを阻害しないこと、それだけだとぼくは思います。

大人と子供。大人はちょっと、子供に対する大人、ということをちょっと考えてみるべきだ。