書評:『幻惑の死と使途 ILLUSION ACTS LIKE MAGIC』森博嗣/講談社文庫

S&Mシリーズ6巻目読了。単純にトリックのあるミステリィとしては、S&Mシリーズをここまで読んできて1番。

幻惑の死と使途 (講談社文庫)

幻惑の死と使途 (講談社文庫)

4-5巻目で急速に進展した犀川と萌絵の関係は、本作ではそれほど進展せず。その代わりといってはなんだが、ミステリィ的な要素はふんだんに盛り込まれていて面白い。

「諸君が、一度でも私の名を呼べば、どんな密室からも抜け出してみせよう」いかなる状況からも奇跡の脱出を果たす天才奇術師・有里匠幻が衆人環境のショーの最中に殺された。しかも遺体は、霊柩車から消失。これは匠幻最後の脱出か? 幾重にも重なる謎に秘められた真実を犀川・西之園の理系師弟が解明する。

本書がシリーズものとして面白いのは、主人公である犀川と萌絵が二人の関係という意味でも、個々人でも成長していくところが描かれているところ。本作では犀川は最後のキメだけの役割で、これまで犀川が担ってきた役割の多くを萌絵が引き継いでいるところが興味深い。大学1年から始まった本作もついに萌絵が大学院進学をする目前にまで話が進み、だいぶ萌絵の「大人としての成長」が明確になってきている。
本作からこのシリーズも後半戦に突入。著者が書いているとおり、本作はシリーズというよりも、個々のストーリーで独立しつつ全体としても1つのストーリーとなっているので、本作以降はそれぞれのストーリー自体はともかく、ストーリー間の連結がより強固になってきている。
さて、年末近くなってきて年末年始で本シリーズも読み終えられそう。次作「夏のレプリカ」は本作との連作といってもいい展開みたいなので、期待して読み始めてみることにする。