書評:『新書で入門 アインシュタイン丸かじり』志村忠夫/新潮新書207

アインシュタイン丸かじり―新書で入門 (新潮新書)

アインシュタイン丸かじり―新書で入門 (新潮新書)

これまでアインシュタイン特殊相対性理論についての書籍を読んでもいまいち理解できなかった根本的な部分をやっと本書を読んで理解できた(気がする)。そういう意味で、本書は非常にお薦めできる一冊。
本書では単にアインシュタイン特殊相対性理論について扱うのではなく、アインシュタインの人柄、日本との関わりなど、そのタイトル通りアインシュタインを「丸かじり」しようというかたちで書かれている点もよかった。また、アインシュタイン特殊相対性理論を理解してもらうためにニュートンから丁寧に説明が展開されている点がよい。そしてなんといっても、奇跡の年1905年に発表されたアインシュタインの論文全体を1つのテーマとして扱い、関連性を含めて全体的な解説がされているところが本書最大の特徴であり、わかりやすさの理由であるともいえる。

これらの論文における論点や導かれた結果をふまえた形で特殊相対性理論の解説がされるからこそ本書は非常に理解しやすいのだと思う。本書では特殊相対性理論の主な結論として以下の6点としてまとめているが、これらが理解できた(気になる)のはそれまでの説明をふまえた説明が展開されるからだ。

  1. 時間と空間を独立に扱うことはできない
  2. 動いている物体の長さは運動方向に縮む
  3. 動いている時計の時間は遅れる
  4. 動いている物体の質量(重さ)は大きくなる
  5. 宇宙に光速を越えるものはない
  6. エネルギーと質量は等価である

(p.101)
本書ではこの結論ありきではなく、なぜこの結論が不思議に思えてしまうのかについて解説し、そして2点の簡単な原則を前提と理解すれさえすればこれらの結論はなんら不思議ではないというかたちで説明がなされる。これこそが本書のミソともいえる部分なのだが、著者もあとがきで

私は、あるとき、本文中で述べた「あること」を「自然界の絶対的真理」として、素直に認めてしまえば、「相対性理論」は非常に革命的ではあっても、決して"怪奇"なものではないことに気付いた。そして、いま、私は「相対性理論」を理解できたような気持ちになれており、長年、私の前に立ちこめていた霧がぱっと晴れたような爽快な気分である。

(p.200)
…と、それがなにかを明記することを避けているようなので、ここでも書かずにおく。
著者と同じように、物理学についてはまったくの素人である私にとってもこの「あること」を納得さえすれば上記の6つの結論は納得のいくものと変わった。
別にアインシュタイン相対性理論を理解したからといって日々の生活の何が変わるわけでもないのだが、知的好奇心を満たしてくれるという意味で、本書は私にとって非常に価値ある一冊だった。