抽象化されたリソースはサービスになっていく(補足1)

Computerworldにこんな記事がUpされました。

OSの役割は縮小している――ヴイエムウェアのマリッツCEOが明言
「仮想化と開発フレームワークがOSの機能を代替し、存在感を高めている」
(2010年06月25日)
 データセンターでは、仮想化やオープンな開発フレームワークに押されてOSの影が薄くなっている――米国VMwareの社長兼CEO、ポール・マリッツ(Paul Maritz)氏は6月23日、サンフランシスコで開催されたコンファレンス「Structure 2010」でそう語った。

http://www.computerworld.jp/topics/cloud/185229.html
SUSEOEM契約をしつつ、やはりVMwareはOSをそれほどは重視していないようです。OSを持っていないことはVMwareにとって現時点では弱点とされていますが、長期的にはOSに縛られないからこそ取り組めるやり方があります。下から仮想化レイヤー、上からフレームワークがOSの役割を浸食していくことによってその重要性が低下していくと考えたためにSpringSourceを買収したと考えると、VMwareの戦略としては明確です。

「サーバOSには従来、ハードウェア・リソースの調整と、アプリケーションに対するハードウェア抽象化サービスの提供という2つの役割があった」と、マリッツ氏は指摘した。だが、仮想データセンターでは、特定のハードウェア・リソースを直接“見る”OSは少なくなっているという。

ハードウェア・リソースの抽象化という面については、すでに仮想化レイヤーとハードウェアの仮想化支援機能によって実装されています。現在のソフトウェアはOSに依存する様につくられているために、仮想マシンではゲストOSを実行する必要がありますが、無数のバリエーションがあったがためにOSとデバイスドライバという仕組みを必要とした物理環境に対して仮想環境は限定的な構成となるため、汎用OSほど「重い」ソフトウェア実行環境は本来必要ではありません。
OSがソフトウェアに対して提供しているものは、ハードウェアの抽象化だけではなく各種APIなどの仕組みがありますので、OSの役割がすぐに取って代わられるようなことはありません。VMwareJavaフレームワークであるSpringを通じて、OSへの依存度合いを下げたソフトウェアの開発環境を提供していく戦略を取るでしょうが、それは長期的な取り組みとなるでしょう。

マリッツ氏は、サーバOSが消滅するとは言わなかったが、司会者からの別の質問に対し、Microsoftは仮想化やクラウドが浸透した新しい状況に適応するのに多大な苦労を要するだろうと語った。「企業にとって、ビジネス・モデルを変えるのは、技術を変えるよりも難しい」(マリッツ氏)

当然ではありますが、MicrosoftWindowsによって築き上げられたこれまでの膨大な資産を活かすことが出来る仕組みとしてHyper-VとAzureを提供しています。Microsoftにとってビジネスモデルを変えることが難しいように、ユーザ側にとってもこれまでのビジネスモデルを変えることは難しいわけで、過去の資産を活かす戦略と過去に囚われない戦略は両面的といえます。

長期的に見ると、仮想化インフラの最終目標は、コンピューティング、メモリ、ストレージ、ネットワーク、ファイアウォールなどのコンポーネントを自動的にスケジューリングし、一連のポリシーが実行されるようにすることだと、マリッツ氏は説明した。最終的には、クラウド自体が現在のx86ハードウェア・プラットフォームのようになり、複雑さはユーザーから隠蔽されるという。

結局は仮想化レイヤーがOSの役割を持つようになる(VMware)のか、OSが仮想化レイヤーの役割を持つようになる(Microsoft, Redhat)のか、行き着くところは同じといえるかもしれません。ただどちらにしろ、OSがハードウェアを抽象化したのと同じように、仮想化とOSが融合したレイヤーはソフトウェアに対してより疎に抽象化された実行環境を提供するようになるでしょう。
現時点では、仮想化は1つの物理環境を複数の仮想環境とする技術、クラウドは複数の物理環境を1つの仮想環境とする技術として発展しつつありますが、両者の技術は次第に融合していくことになるでしょう。抽象化によってリソースはサービスとなっていきますが、それはサービスが下のレイヤーの制約に縛られなくなるからこそ実現する状態といえます。
10年後のITインフラにはOSと呼ばれるものは存在しているとは思いますが、その役割や位置づけは今とはだいぶ異なった存在になっていると思います。