RHEV-H & RHEV-S

Red hatKVM*1を用いたHypervisorソフトウェア製品"Red Hat Enterprise Virtualization Hypervisor(RHEV-H)"と管理サーバツール"Red Hat Enterprise Virtualization Manager for Servers(RHEV-S)"を発表しました。
RHEV-HはHypervisorとして動作するために必要な最小限のRHELカーネル(RHEL5.4互換)とKVMだけを構成することにより、128MBというフットプリントサイズを実現した仮想化ソフトウェアです*2
KVMはQumranetが開発しその後Red hatが買収、現在はRed hatが主導して開発が進められているLinuxカーネルそのものに組みこまれた仮想化ソフトウェアというか仮想化機能です。同じくLinux系の仮想化ソフトウェアとしてはXenが有名ですが、XenそのものはLinuxカーネルとは全くの別物として構成されており、Linux kernelに組みこまれているKVMとは仕組みが異なります。デバイスドライバの管理がHypervisorに組みこまれているか否かという区分けで考えれば、KVMはどちらかというとVMware ESXに似た仕組みといえますし、XenMicrosoftHyper-Vと似た仕組みと言えるところが面白いところです。

KVMLinuxのモジュールとして組みこまれていますので、一種の特殊なドライバみたいな部分(kvm.ko, kvm-intel.ko/kvm-amd.ko)と管理モジュール群(qemu-kvm, kvm-qemu-img, kvm-toolsなど)から構成されますが、最も面白いところはlibvirtと呼ばれる抽象化ライブラリを持つ点でしょう*3。また、デバイスエミュレーションはQEMUを使う点などもLinux KernelそのもののKVMの特徴といえるかもしれません*4
KVMLinux kernelそのものなので、歴史は浅くてもLinuxの資産をそのまま活用できる点が最大のポイントです。Red hatがここまでKVMに注力するのも、自社の持つLinuxに対する技術、さらには経験やノウハウを活かせると考えたからでしょう。SELinuxを用いたセキュリティなどと64bit kernelとして最大96コア、1TBメモリまでをサポートするスケーラビリティは他の仮想化製品に引けを取りません。dom0を通じた2段階のデバイスI/Oを必要とするXenに対して、virtioドライバを用いることによりゲストOSから直接HypervisorにI/Oを投げられるのも性能面では有利でしょう。
RHEV-SはRed hat初のWindows向けサーバアプリケーションですが、他の仮想化製品が持つ一通りの管理機能はそろえているようです。HA機能、ライブマイグレーション機能、負荷分散機能、省電力機能など、他の仮想環境管理ソフトウェアが持つ機能が最初から一通り用意されている点は後発ならではの利点といえます。

KVMは非常に優れた仮想化ソフトウェアだとは思いますが、VMware vSphere, Citrix XenServer, Microsoft Hyper-Vに対してエンタープライズ製品としての提供が遅れてしまったところは商業ビジネスとしては厳しいところでしょう。プロプライエタリであっても市場シェアを確保してデファクトスタンダード化してしまえば、そう簡単にはその覇権を覆すことが難しいことはWindowsが証明しています。とはいえ、サーバOSとしてはLinuxが一定のシェアを持つなど、一極集中とまではいかないところもあります。KVMをベースとしたRHEVがどれだけ受け入れられることになるのか、Red hatは当面地道な努力が求められそうですが激しい競合が市場を発展させることになると思いますので、ぜひ奮戦してもらいたいところではあります。

*1:Kernel-based Virtual Machine

*2:KVMLinuxカーネルに統合されていますので、RHELカーネルだけといってもいいのかもしれませんが…

*3:libvirtそのものは別にKVMのためのライブラリというわけではなく汎用的に使えるものとして用意されていますが

*4:ただし、KVMで用いられる場合はIntel VT/AMD-Vを前提として、オーバーヘッドは最小化する仕組みを持つ