書評:『バカヤロー経済学』竹内薫/晋遊舎新書005

残念ながら、ちょっとタイトルがバカヤロー。本書の内容は経済学というよりもリアルな政治経済。どうせつけるなら「バカヤロー日本の政治と経済」とか、さらにやってしまうなら「バカヤロー日本社会」ぐらいつけて欲しかったところ。まぁ「バカヤロー経済学」の方がぱっと目に止まりやすからかもしれないけど…本書の価値はは経済学のおさらいと現実との比較がコンパクトにまとめられていることだ。それにしても、この著者がこうした類の本を出すとは思わなかったので意外だったし、さらには内容がかなり際どいところまでつっこんでいたことがさらに意外だった。

バカヤロー経済学 (晋遊舎新書 5)

バカヤロー経済学 (晋遊舎新書 5)

小学生に戻ったつもりで、ボクは先生にあらゆる素朴な疑問をぶつけてみた。でも、先生は、決して「そんなバカヤローな質問はするな」とは言わなかった。なにしろ、ボクはいい年をした大人ではなく、けなげな小学生なのだから。先生は、ボクの質問攻めに、ときには笑いながら、ときにはまじめな顔で、わかりやすく正確にからくりを説明してくれた。
バカヤローな世の中を少しでも「まとも」にしたくて、ボクらはこの本をつくりました。どうか、最後までじっくりとお読みください!

タイトルから、学問としての経済学の微妙さに対するツッコミ本なのかと思っていたが、読んでみてまったく違ったのでいい意味で期待を裏切られた感じ。ここまで現実の政治と経済をほじくりまわした内容だとは思わなかった。

(p.20)
経済学にはノーフリーランチ(No Free Lunch)って言葉がありましてね、残念ながら世の中、そんなおいしい話はない。つまり、ただ飯はないんですよ。それで、実はこれが社会を構成する上で一番重要な真理なんです。ただ、経済学で世の中の仕組みはわかるから、損をしないようには生きていけるかもしれませんよ。

本書は対談形式でまとめられているので、細かい部分は色々と端折られているのだけれども、この本の読みやすさの基盤となっているテンポ感を生み出すためには必要なフォーマットだといえるのかもしれない。とはいえ、だからといって本書の内容は軽いかというとそんなことはない。ぽっと出の経済学部生であっても知らないようなことがゴロゴロと本書の中には詰まっている。

(p.24)
先生 …(略) こういう風に、お金が増えることを、経済では、信用創造って呼んでいてね、ハイパワードマネー信用創造で増えたお金のことを、マネーサプライって呼んでいるの。つまり、信用によって創造されたヴァーチャルなお金が、世の中にあるお金のほとんどを構成しているんです。(中略)ちなみに、日本のハイパワードマネーは90兆円くらい。マネーサプライは750兆円くらいあるんですよ。
竹内 …(略) お金っていうのは、信用によって創造される、いわば人類共通の共同幻想みたいなものなんですね。

そもそも、このお金の基本を理解できていない人は意外なほど多い。まぁ幻想を幻想にしておくためには多くの人が知った状態になってしまってはまずいのかもしれないけど…それにしてもテレビなどで垂れ流された情報を真に受けて受け止める人が多いのは残念だ。

(p.43)
先生 …(略) 財政政策は、事業を増やして経済活動を活発にする。金融政策は、お金の量を増やして、経済活動を活発にするの。(中略) 財政政策は公共投資と減税。(中略) 次に金融政策なんだけど、これは従来型の金利操作と量的緩和政策っていうのがあるわけ。

(p.47)
先生 …(略) 節約っていうのは、家計の中では正しい。でも全員がそれをやったら、経済活動が活発化しない。これを合成の誤謬とかファラシーオブコンポジションっていうんだけど、ミクロ経済の中で1つ1つは正しくても、マクロ経済で考えちゃうとダメになっちゃうことがあるんです。

(p.49)
先生 …(略) 固定相場制の下では財政政策は有効ですが、金融政策は無効になる。逆に変動相場制の下では財政政策は無効だけど、金融政策は有効になるんです。なぜだか、わかりますか?

さて、ここで紹介したのはまだまだ本書のほんのさわり部分だけだ。この質問の答えが気になる方も、その他興味を持ってくださった方も、ぜひここから先は本書を手にして読んでみて欲しいと思う。8/30までまだもうちょっと時間がある。本書はぜひそれまでに一度でいいからざっと読んでおくべき1冊だ。