書評:『ラッシュライフ』伊坂幸太郎/新潮文庫

伊坂幸太郎3冊目。今のところ、本作がNo.1に昇格。交錯する人生模様を描いた本作はミステリィでもラブストーリーでもない、新しいスタイルの小説といったら言い過ぎだろうか。

ラッシュライフ (新潮文庫)

ラッシュライフ (新潮文庫)

泥棒を生業とする男は新たなカモを物色する。父に自殺された青年は神に憧れる。女性カウンセラーは不倫相手との再婚を企む。職を失い家族に見捨てられた男は野良犬を拾う。幕間には歩くバラバラ死体登場−。並走する四つの物語、交錯する十以上の人生、その果てに待つ意外な未来。不思議な人物、機知に富む会話、先の読めない展開。巧緻な騙し絵のごとき現代の寓話の幕が、今あがる。

本作の扉にはエッシャーの代表作ともいえるこの絵が添えられている。

この絵の中で階段を登る修道士のように、本作の登場人物たちは人生を登っているようで、人生の輪廻にのまれている。しかしそれは必ずしも前進のない人生ではない。果たして修道士たちの歩みに意味はないのか。一人、広いテラスからその様子を眺めている人生の方がよい人生だと言えるのか。階段に腰掛ける人はどんな想いなのか…。
次第にピースが組み合わされて絵が浮かび上がってくるジグソーパズルのように、本作の終盤で見えてくる絵は、エッシャーそのものかもしれない。