9坪ハウスを「過去の建築史の1ページ」という存在から「現在実現可能な豊かな生活のための小さな実験住宅」として復活させたきっかけとなった『スミレアオイハウス』のオーナー夫妻がそれぞれ記した建築記。いわゆる施主本。建て主という立場で家づくりに関わる人間としては、建築家による書籍よりも断然こちらの方が共感できたり参考になったりすることは多い。そして、それ以上になんといっても読んでいて面白いのは断然こういった本だ。
- 作者: 萩原百合
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2004/06/09
- メディア: 文庫
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- まえがき 実験生活の始まり
- 聞き捨てならぬ夫の自邸建築発言
- いざ"柱展"会場へ
- 不純な動機から始まった家づくり
- 初めての不動産屋まわり
- ひょうたんからコマ
- 唖然呆然の土地契約
- 図面からは見えてこないもの
- 美しき前川國男邸
- 今だから言える設計者とのバトル
- みんなのもの、それが9坪ハウス
- うれしい誤算
- 朝を迎える愉しみ
- オープンはおいしい
- 明るいキッチン計画
- テレビがない生活
- "表札なし" "インターフォンなし" "ポストあり"のワケ
- 突然の来訪者いろいろ
- 親子同床いつまで続く?
- 6坪に長屋あり
- 掃除がラクな理由
- 洗濯物を美しく干すための一考察
- オープンハウス、ふたたび
- あまった空間の使い方
- 我、縄文人に遭遇す
- 9坪ハウスに似合う庭
- 1+1坪ハウスプロジェクト
- 長屋解体、一変して修行部屋誕生
- 掃除機抜きの掃除、はじまる
- 緑化は一日にしてならず
- 窓をめぐる話
- 食う寝る以外にできること
- あとがき
最初に読んだのはいきなり夫に家づくり宣言をされ、しかも9坪ハウスを突きつけられた側の奥さん側から。別になぜこちら側から読んだのかについて理由はない。単に先に手元にやってきたから。
持ち家を持つことに対してまったく関心を持っていなかったはずの夫がある日突然「家を建てたいと思っているんだけど」などと発言したのだから驚きの家づくりスタート。しかも土地に合わせて家を建てるという普通のプロセスとは反対に、家に合わせて土地を探すというなかなかないパターンでの展開。4人家族がはたして9坪ハウスで成り立つのか。心配が尽きない日々から、次第にいい意味で開き直り、9坪ハウスの持つシンプルさに逆に惹かれ、そして生活に合わせて9坪ハウスを変えるのではなく、生活を9坪ハウスに自然に合わせていこうと思うに至る過程は読んでいて面白いし参考になる。
突然の家づくり計画スタートに戸惑いながらも積極的に関わり、土地契約では振り回されながらもなんとか期間内に契約にこぎ着け、様々な(静かな?)バトルを乗り越えて始まった9坪ハウス生活。こちらの本では半分程度が竣工後の生活・イベントに割かれているのもよかった。オープンハウス、近所の人たちとのかかわり、子供たちの積極的な関与した家の改造、掃除、庭造り…。家づくりは建てることがゴールではない、ということが本書を読んでいるとよくわかった。
- 作者: 萩原修
- 出版社/メーカー: 廣済堂出版
- 発売日: 2000/11/01
- メディア: 単行本
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- はじめに ある家との出会い
- 第1章 柱からはじまった家づくり
- 第2章 再現された最小限住宅
- 第3章 スミレアオイハウス・プロジェクト
- 第4章 条件付きの土地探し
- 第5章 35年ローンの契約
- 第6章 リ・デザインという試み
- 第7章 生活をデザインする
- 第8章 家ができる現場
- 第9章 オープンハウス
- おわりに 小さな家からはじめよう
続いて、そもそもの騒動?のきっかけをつくった夫の側。夫婦がそれぞれ、1冊の家づくり記を発刊したのはこの夫婦だけではないかと思うのだが、女性の視点と男性の視点、家づくりに対する考え方の違いは面白い。
そもそもの始まりは柱展の出品物として用意された最小限住宅の骨組みなので、本書の方が9坪ハウスの起源についてや関わった建築家や工務店などの情報は多い。逆に、9坪ハウスでの生活をよりリアルに描いているのはやはり奥さんの方。どちらかだけ読んでも、どちらも読んでも、そしてどちらから読んでもよいと思うのだが、やはりこの2冊は合わせて読むとより楽しめるし参考になることも多いのではないかと思う。
それにしても9坪ハウスは自分にはできないなぁ〜と思いつつも、大いに共感する部分はあったりする。1室空間、吹き抜け、木の柱と梁を根幹とした家づくり、大開口の窓…。異なる解ではあるけれども、そこには根本を一にする様々な共通要素があり、施主側の家に求めるものに対する意識という意味での志向性の近似は様々な部分で感じる。考えてみれば、9坪ハウスに対してこれから建てる我が家の1階床面積は12.5坪程度。わずか3.5坪しか違わない。でも最低限の基準さえ満たしていれば、家における生活の豊かさの基準は床面積ではないと思う。
もはや実験生活ではない。新しい生活スタイルとして、万人受けするものではなくても一定の割合の人が選択しうる生活がそこにはあった。