プロトタイプでも規格品でもない

最近「家」の話ばかりですが、まぁ興味がある方はお読みいただければ。
MUJI+INFILL木の家」は建築家による作品ではありませんが、系譜としては難波和彦氏の「箱の家」の標準化展開シリーズといえるかと思います。そういう意味では建築家なくしては生まれなかった「作品」としての側面を持ち合わせています。しかしそれと同時に、無印良品がかかわることによって一種の工業化が行われているわけで、「製品」としての側面も同時に持っているともいえるでしょう。
箱の家シリーズは木造・鉄骨造など様々なパターンがあり、また先進的な試みも数多く取り入れられていますが、木の家シリーズになると木造SE工法である程度標準パターンがあるところから考えていくことになります。ベースを守りつつ規格化によって標準化を図られた家。個性的な家を志向していた私と別にマンションでもいい派であった奥さんとの融合点がこのポジションにぴったりとはまりこんだ感じです。
難波和彦+界工舎ウェブサイトより

■1月15日(木)
11時、ムジネットの浅田社長が来所。「MUJI+INFILL木の家」の今後の展開について話し合う。この開発計画は僕自身の建築家としてのスタンスを問う仕事であることを伝える。これまで日本では工業化住宅に本格的に取り組み、実現させた建築家は大野勝彦さん以外に存在しない。この仕事は建築家としての僕自身の立場を明確にすることになる。この点については『建築家は住宅で何を考えているか』の序文「建築家が考える住宅」で僕自身の考えを明確に述べた。要するに建築家はプロトタイプの提案をめざすということである。多くの建築家は僕の考えに反対するだろう。しかし建築家がデザインする住宅の社会性はこの点以外にないと思う。

木の家ではプロトタイプとしてのチャレンジはないかもしれませんが、一定の標準化が図られた製品としての安定感を持っています。プロトタイプは同時に建築家の作品としての拘りがある程度の主張を持つことになりますが、展開から5年経った木の家シリーズはだいぶ製品化された側面が表立ってきていて建築家の作品としての色は控えめになっています。

■1月16日(金)
10時ムジネット開発部が来所。「MUJI+INFILL木の家」の展開の現況について詳細な説明を受ける。開発当初から本質的な変更はないが、細部では多くの修正が行われている。コスト構成についても詳細な検証が進んでいる。引き続きニューバージョンの課題について意見交換。建物だけでなく敷地のデータについても検討を要請する。第1回の会合はここまでで終了。1ヶ月後の第2回目会合で第2ヴァージョンの骨子をプレゼンテーションすることを約す。僕の頭の中には第2ヴァージョンの明確なイメージがあるが、しばらく時間をかけて熟成させたい。

『開発当初から本質的な変更はないが、細部では多くの修正が行われている。コスト構成についても詳細な検証が進んでいる。』ということの安心感。細かいところにまで修正が行き届きつつある現時点は木の家を建てるのによい時期なのではないかと思っています。
ニューバージョンの木の家がリリースされれば、木の家は進化しつつも再度チャレンジ期に入っていくことになるでしょう。それもとても楽しみではあるのですが、人生の長い期間を過ごす「自分たちの家」として、1つの到達点ともいえる現状の木の家を選択したことは私たちの状況とうまくマッチしたいいタイミングであったのではないかと思っています。