経済学の理論と現実の経済には乖離がある。いくら理論的に正しくても、政策の結果が必ず望んだ方向にはならない理由は単に人が不完全なだけなのだろうか。そうした理論と現実をつなぐ狭間を埋める領域として、近年 行動経済学と呼ばれる分野が生まれつつある。理論経済学とも実験経済学とも違う、どちらかというと生物学と心理学と統計学を結び合わせてごちゃまぜにしたような学問だ。そういう意味で、人間の営みを学問する経済学は全ての学問の中心に位置すると言ってもよいのかもしれない。
- 作者: マッテオ・モッテルリーニ,泉典子
- 出版社/メーカー: 紀伊國屋書店
- 発売日: 2008/04/17
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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経済学って、こんなに人間的で、面白い学問だったのか。
最新の行動経済学は、経済の主体であるところの人間の行動、
その判断と選択に心理学の観点から光を当てる。
そこに見えてきたのは、合理性とは似つかない
「人間的な、あまりにも人間的な」一面。
クイズ形式で楽しく読み進むうちに、「目からうろこ」、
ビジネスでのヒントに溢れ、お金をめぐるあなたの常識を覆す。
本書はとても面白いのだが、あくまでも行動経済学の普及本のようなスタンスとして書かれており、深い論理的な部分まではおそらくあえて書かれていない。本書を読んで経済学に興味を持つことは大変良いことだと思うが、本書で経済学を知ったと思うと、あまり幸せな結果にはならないかもしれない。「なんで経済学の理論は実際の経済においてはうまく結びつかないことがあるのだろう」というズレに対しての好奇心を満たし、ちょっと刺激を与えてくれるクイズ形式のトレーニング本として読むぐらいがちょうどよいかも。
- パート1 日常の中の非合理
- 1.頭はこう計算する
- 1000円がいつも1000円とはかぎらない
- 選択肢が多いほど混乱する
- プラス面に注意を向けるか、マイナス面に目を光らすか
- 2.矛盾した結論を出す
- 客の気持ちを惑わす
- 三つあると真ん中を選ぶ
- 何が迷いを生じさせるか
- 3.錯覚、罠、呪い
- 優先順位がひっくり返る
- 非合理は高くつく
- 自分のものになると値が上がる
- 現状は維持したい
- 払ったからには参加しなきゃ損
- 競りに買っても喜べないー「勝者の呪い」
- 数値の暗示に引っかかるー「アンカリング効果」
- 4.「先入観」という魔物
- 私たちの頭は当てにならない
- だれもが持つ錯覚
- 非合理だからこそ人間なのだ
- 5.見方によっては得
- 問題の提示の仕方が判断を決める
- イメージに左右される
- 死亡率より生存率で
- 6.どうして損ばかりしているのか
- 雨の日のタクシーはどうして早々と引き上げるのか
- 得している株は売り、損している株は手放さない
- してしまったことを後悔するか、しなかったことを後悔するか
- 7.お金についての錯覚
- 実収入か額面か
- 自分の給料より同僚の給料の方が気になる
- 100万円得した喜びより、100万円損したショックのほうがはるかに大きい
- パート2 自分自身を知れ
- 8.リスクの感じ方はこんなに違う
- つじつまの合わない答えを出す
- 数字を情緒で判断する
- 「1%」と「100人に1人」の違い
- 中身を多く見せたいとき、カップは小さい方がいい?
- 9.リスクと駆け引き
- 相対的リスクと絶対的リスク
- 統計に表れた数字が読めない
- 10.知ってるつもり
- プロになるほど過信する
- 自信過剰がはめる罠
- 成功すると自分のため、失敗すると他人のせい
- 自分に都合のいい面だけを見たがる
- 11.経験がじゃまをする
- 「そうなるはず」という思いこみ
- 結果よりプロセスに目を向ける
- 12.投資の心理学
- リスクを加味してリスクを減らす
- 近過去から近未来を占う
- なじみの企業に投資したがる悪い癖
- 事情に明るいほどうまい投資ができるという錯覚
- 売買が激しいと損をする
- 13.将来を読む
- 読みを誤る
- 前と後ろで判断が異なる
- パート3 判断するのは感情か理性か
- 14.人が相手の損得ゲーム
- 対立作戦ゲーム
- 共同作戦ゲーム
- 理論と実際の違い
- 15.怒れるニューロン
- 脳が苦汁を飲むとき
- 相手の頭の中を読む
- 復習は何よりも快楽のため
- 16.心を読むミラーゲーム
- 17.理性より感情がものを言う
- 理性には限界がある
- 感情は不可欠はサポーター
- セミとアリとハトの教訓
- 18.人間的な、あまりに人間な我々の脳
- おしまいに〜怠け者の経済学
- 感情のシステムと理性のシステム
- エラーを解剖してみれば
- 自分の限界を知る
本書が面白いかどうかは、この目次をざっと眺めてみて、気になる部分があるかどうかで明確だ。
経済は人間の営みの「結果」であるから、理論だけでは解決されない。しかし、実体はカオスであり、研究として分析できる対象でもまたない。
理論経済学はそうしたつかみ所のない経済の基礎理論としてとても重要だが、人々の生活に影響を与える要素はそうした理論を応用した実際の政策や対策、方針などだ。理論に基づき、現実的な対策を考える上で、行動経済学により一歩一歩地道に解き明かされていく要素は対策をより現実的な、期待する結果に結びつきやすい(もしくは期待される結果を予測しやすい)ものにするためのとても重要な橋渡しといえる。