研究者自身が書いた本ではなく、ライターが研究者たちに取材を重ねて書き上げた一冊だからこそ入門書としては最適な一冊。
- 作者: 田中幹人
- 出版社/メーカー: 日本実業出版社
- 発売日: 2008/05/22
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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- まえがき
- 1章 多能性細胞とはいったい何か
- 2章 「ヒトiPS細胞」誕生
- 一人の患者さんとの出会いが研究の世界へ導いた
- 山中研究室がいよいよスタート
- 研究を推し進めるためにどうしても必要な「お金」の工面
- 分子生物学という「推理ゲーム」
- いよいよ、多能性誘導に取り組む
- マウスiPS細胞の誕生
- iPS細胞、世界の舞台へ
- マウスiPS細胞の論文発表が広げた波紋
- ヒトiPS細胞に向けての闘い
- 二つのちょっとした工夫でヒトiPS細胞のコロニーが得られた
- 三因子でもiPS細胞を産み出すことができる
- 3章 iPS細胞でガラリと変わる再生医療
- 4章 再生医学研究を成功させるための課題
- 5章 再生医療は未来の社会をどう変えるのか
- 終章 再生医療はいつ実現するか
- 謝辞
- 出典・参考文献
iPS細胞の何が凄いのか、漠然と認識していたが、その可能性は無限大だ。もちろんまだその研究はその入り口が開かれた段階だが、人類はこれまで入り口さえ開けば想像を超えたスピードで研究、そして実用化を推し進めてきた。数年というスパンでは難しいだろうが、数十年、そして半世紀程度のスパンで考えれば十分実用化が視野に入ってくるのではないかと思う。
多能性幹細胞。特定の機能を持つのではなく、どんな用途の細胞であっても創り出すことができる根幹たる幹細胞についての研究の流れ、そしてiPS細胞が持つ可能性についての説明から本書は始まる。iPS細胞を理解するためには、ES細胞についての理解が不可欠なのだが、ES細胞の可能性と根本的に抱える倫理的な問題をふまえることで、iPS細胞の持つ可能性をはじめて理解することができる。
体細胞だけを用いて多能性細胞を創り出す。まるでタイムマシンによって過去にさかのぼるかのように細胞が元々持っていた機能を呼び戻す研究はiPS細胞によって大きなブレイクスルーを突破したことは間違いない。2章で語られる、ヒトiPS細胞を産み出すまでの山中研究室の奮闘ドキュメンタリーは、読み進めているだけでも興奮せずにはいられない。目の前に、まだ誰も到達できていない世界の入り口がある。その入り口を開けるドキドキ感は、たとえ研究者ではなくても誰もが持つ探求心を強く揺さぶる。
iPS細胞は大きな可能性を秘めていることは間違いないが、同時に様々な課題を抱えている。iPS細胞の実現によって、再生医療に向けた様々な研究がさらに一歩前進することは確実だが、まだまだ前途は長い道のりがある。iPS細胞によって実現が期待される新しい医療「再生医療」は、多くの人に希望をもたらしているが、その希望が現実のものとなる日を迎えるまでには、まだまだ積み重ねていかなければならない課題は数多くあるという現実を本書は明確に訴えている。そして、単に技術的な課題だけではなく、社会的な問題や、倫理的な問題など、iPS細胞はその可能性が無限大であるが故に、同じく無限大ともいえる課題もまた抱えている。
とはいえ、人類はそうした課題に対して積極的に取り組み、そして受け入れてきた。iPS細胞を巡る研究が止まることはないし、今後は飛躍的に研究が進んでいくことになるだろう。そうした中で、具体的な形として人がその研究成果によって救われる日がいつかやってくる。
本書が扱うiPS細胞研究のスタートラインは、数十年後、そして1世紀後にはきっと想像もできないような医療・そして社会を人類にもたらすことになるのだろう。