書評:『人類が消えた世界 THE WORLD WITHOUT US』アラン・ワイズマン(著)・鬼澤 忍(訳)/早川書房

「TIME誌が選ぶ2007年ベストノンフィクション」「Amazon.com Best Books of 2007 (ノンフィクション部門)」だそうなのだが、人類が消えた世界を書いているにもかかわらずノンフィクションとはこれいかに…(^_^;)。

人類が消えた世界

人類が消えた世界

本書のオビには「私たちなきあと地球はどうなるのか?最新科学で解き明かす驚愕の未来予測!」とあるが、本書は科学ドキュメンタリーを中心に活動しているジャーナリスト、アラン・ワイズマンが様々な分野の専門家から「ある日突然人がいなくなったらどうなるのか」を取材した結果をまとめた作品である。特定の分野の専門家ではないが故に、様々な角度で「人類が消えた世界」を描いた作品として仕上がっている。

  • 目次
  • サルの公案
  • 第1部
    1. エデンの園の残り香
    2. 崩壊する家
    3. 人類が消えた街
    4. 人類誕生直前の世界
    5. 消えた珍獣たち
    6. アフリカのパラドクス
  • 第2部
    1. 崩れゆくもの
    2. 持ちこたえるもの
    3. プラスチックは永遠なり
    4. 世界最大の石油化学工業地帯
    5. 農地が消えた世界
  • 第3部
    1. 古代と現代の世界七不思議がたどる運命
    2. 戦争のない世界
    3. 人類が消えた世界の鳥たち
    4. 放射能を帯びた遺産
    5. 大地に刻まれた歴史
  • 第4部
    1. 私たちはこれからどこに行くのか?
    2. 時を超える芸術
    3. 海のゆりかご
  • 私たちの地球、私たちの魂

人類は地球上のありとあらゆるところで活動し、他の動物たち、植物たちの自然、そして地球そのものの表層・大気に対して様々な影響を与えている。しかし、人類の世界は人類がいてはじめて維持される。ある日、忽然と「人類だけが」地球上から姿を消した場合、地球にどのような変化が生じるのかについて考えを巡らすということは、裏返して考えれば「人類によって」どれだけの影響を与えた状態が創り出されているのかを考えることだ。そして、人類の世界はいかに「無理をして」維持されているのかも明らかにしている。管理する人類が消えてしまうと、排水機能が停止してわずか数日で水没してしまうと想定されるニューヨークの地下鉄。それを何事もないように維持し続けている人間の凄さにも驚くが、わずか数日でその世界を崩壊させてしまう自然の力にも同時に驚かされる。人類が自然を支配してるかのように見える都市であっても、それは人類が休みなく維持していることによってその姿を保っているだけの存在だったわけだ。とはいえ、人類によって滅ぼされた動植物は数多くいるわけで、それらは人類が消えたからといって戻ってくるわけではないのだが…。
様々な要因で「人類が消えた」地域はすでに様々な場所に存在する。皮肉なことに、その主な原因は戦争などの結果として生じた緩衝地帯などだ。そうした場所は、ある日忽然と人類による生活による影響が消え去る。そうした場所は人がいなくなり、管理されなくなった結果がどのような世界を創り出すのかの貴重なサンプルとなっている。人類が消え去ってしまうことによって、思いの外 すぐに消え去ってしまうものもあれば、想像以上に残り続け、その後の自然に対しても長いこと影響を与え続けるものもある。非常に長期にわたって残ってしまう代表例はプラスチック。

本書 p.192
過去半世紀のプラスチックの総生産量はすでに10億トンを超えている。性質の異なる何百種類ものプラスチックが、数え切れないほどの可塑剤、乳白剤、色素、充填剤、強化剤、光安定剤を添加してつくられてきた。個々の寿命の長さには大きな幅がある。これまでに完全に消滅したものはない。ポリエチレンが生分解されるのにどれくらい時間がかかるかを知るため、研究者たちは培養したバクテリアのなかにサンプルを保存してみた。1年後に消滅していたのは1パーセント未満だった。

人類は地球規模で様々なものを創り出してきたが、非常に長期にわたって影響を残すであろう遺産も多い。原子力発電所核兵器などといった、ウランプルトニウムは人の管理が失われることによって様々な問題が発生するだろう。しかし、それであっても人類が地球に与え続けている影響は人類が存在し続けるよりも小さいのかもしれない。
人類の消えた世界を想像できる人類は、はたして本当に消えた方がよいのだろうか。人類に残された時間は思ったよりもないのかもしれない。