実況LIVE 企業ファイナンス入門講座―ビジネスの意思決定に役立つ財務戦略の基本
- 作者: 保田隆明
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2008/02/29
- メディア: 単行本
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これまでは単純に銀行からの借りいれのみで調達されていた資金調達方法に現在、様々な手法が用いられるようになっている。
まずはおきまりのパターンと言うことで、「なぜ資金が必要なのか」という点について再確認から本章は始まる。いくら、いつまで、調達コスト、経営権、手間など、資金を調達する前に考えておくべきポイントが明確になる。
つづいて手法。銀行借入、社債発行、株式発行の3つの方法について、上記の各検討ポイントに照らして比較点が明示される。それぞれの手法にはメリット・デメリットや、調達する資金の性格によって適しているかどうかなどの判断が必要となる。それぞれの資金調達方法は、資本や格付け、機動性、投資換えの影響などのそれぞれの点についてメリット・デメリットがある。
そして資金調達手段を多様化する必要性についての解説。加重平均資本コスト(WACC)という考え方に照らして、説明が行われる。企業価値を最大化するためにはWACCを最小化する、という考え方に基づいて、借入金と株式の割合を最適化することについての必要性がわかる。
格付け機関の説明や、格付け判断が与える影響などについての説明に続いて、それぞれの方法を用いて資金調達を行った場合のシュミレーションが提示される。普通社債、転換社債、株式、それぞれの方式で工場建設のための500億円の資金を調達した場合、企業価値に対してはどのような影響があるのかという課題は、資金面から企業を考える上で重要なポイントといえるだろう。
そして最後には実際の資金調達事例について。花王によるカネボウ化粧品事業の買収、JTによるギャラハーの買収、日本板硝子によるピルキントンの買収、そしてソフトバンクによるボーダフォン(国内事業)の買収、日本航空による航空機購入のための増資などのそれぞれにおいて、どのような手法により資金が調達され、どのような影響があったのかが具体的な事例として提示される。
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いきなり「株主還元政策でよくある勘違い」についての説明から。配当の増配と自社株買いの2つの手法について、理論的には「還元」にはなり得ないことをまず押さえることから始まる。企業側の考えと、株主側の考え。企業を構成する2つの対面的な要素それぞれの視点から配当を考えてみると、そこにはお互いの意志が見えてくる。短期的〜長期的な視点まで、企業を取り巻く株主の考えは多様化・国際化しており、企業は株主に対する対応をより重視することを迫られている。
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最終章。ここまでコーポレートファイナンスを解説してきた本書の締めくくりとしてIRが取り上げられている点は逆説的ともいえなくはない気がするが、どのようなコーポレートファイナンス戦略を採るとしても、その意図や経緯が正しく市場に対して伝わっていないと望んだ結果は得られない。
ふーむ、奥深い…。
大学の授業でも、これくらいのレベルは講義してもいい気がした一冊でした。つまらない化石のような金融論語るよりも、コーポレートファイナンスを理解することは学生にとっても十分意味のあることなんじゃないかと思います。
おしまい。