コーポレートファイナンスに携わらない立場だとしても、本書から得られる知識を理解しておく価値は非常に高い。そして本書の価値はそれだけにとどまらない。本書はとても読みやすく、コーポレートファイナンスを仕事としない立場のビジネスマンがコーポレートファイナンスを学ぶ入門書として素晴らし出来だと思う。別に私がそう評価したところで何の得にもならないだろうけれども(^_^;)。
ただし、入門講座と銘打っているものの、本書の内容は企業から見たファイナンスを非常に幅広く扱っており、本書の内容を十分に理解しているのであれば十分企業における財務戦略を仕事に出来るのではないかと思う(もちろん、より詳細なロジック知識は必要になるだろうけど)。
実況LIVE 企業ファイナンス入門講座―ビジネスの意思決定に役立つ財務戦略の基本
- 作者: 保田隆明
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2008/02/29
- メディア: 単行本
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- PART1 Life of a Company [会社の一生]という考え方
- 誕生−ひたすら生き抜く(目安として設立後5年目まで)
- ビジネスの拡大(株式上場まで)
- 成熟−さらなる成長への資金ニーズ(M&Aや市場での資金調達を活用)
- 生き延びる(輪廻転生)
本書の幕開けを告げるPART1は「そもそも会社とは」、という点についての再理解から始まる。しかし、まずこの点についての説明から始まることで、「会社のライフステージによって財務戦略はちがう」ということをベースとしてコーポレートファイナンスに対する理解を築き上げていくことができる。
ベンチャーキャピタルから銀行、株式上場、IR活動、M&A、事業売却、MBO…。成長ステージごとに企業に求められるアクションとそれに対応するための、異なるコーポレートファイナンス戦略。金融サイドの理論とも個人レベルの対応とも異なる、企業としてのファイナンスに対する考え方を理解するために、この理解をベースにすると、とても理解しやすい。上辺の理解にとどまらない知識として学習するためにはしっかりとした土台が必要だ。
PART2は企業のスタートアップ期におけるコーポレートファイナンスが解説される。
なぜベンチャーキャピタルはスタートアップ企業に資金を提供してくれるのか、ベンチャーキャピタルが求めるリターンとは、企業の成長ステップに合わせた想定株価設定の必要性とは、そしてそもそも上場していない企業の時価はどのように決定されるのかなど、本章は未公開企業段階の企業の価値はどのように測られるのかという点について丁寧に説明されている。上場時に想定される時価総額に対して現時点の時価をどのように考えるのか、利益の大きさよりも成長率こそが重要な要素となるがゆえの企業価値の算定方法、その判断基準として用いられる指標であるPERについての解説など、企業側の立場として資金を提供してくれる様々な立場の相手とどのように折衝していくべきかの基本知識が本章には詰め込まれている。
いかに経営権を維持しながら必要となる資金を調達していくか、創業から上場直前までの各段階ごとに想定されるパターンを理解しておくことは会社を創業しないとしても知っておいて損はないだろう。なぜならば、本章には上場前のフェーズにおいて従業員に対するインセンティブとしてよく用いられるストックオプションについても説明されているから。従業員がストックオプションを会社から与えられたとして、はたしてそのストックオプションにはどれだけの価値が見込まれるのか、それを理解するためには会社が発行している株式総数や想定される上場時の時価総額などを理解しておく必要がある。
株価はどう決定されているのか、改めて考えてみるとなかなか面白くて不思議に思えないだろうか。上場されている企業の株価は日々変化しているが、そもそもなぜその会社の株式はその価格になっているのか、その価格を生み出している仕組みはなかなか良くできている(そりゃそうか)。企業価値を評価する基準を利益で考えるのであれば、その企業が将来において産み出すことが期待される利益をどのように考え、それをどのように現時点における価値として結びつけるのか、そこにある考え方は思ったよりも奥深い。
企業の成長性や収益性に基づいた「将来のキャッシュフロー」をどのよう算出するのか、そしてその確実性のレベルに基づく「割引率」はどう決定されるのか、その計算式を平易に説明してくれているのだが、本書ほど分かりやすく解説されている本はいまのところ出会ったことがない。
ファイナンスの面から、企業価値を向上させるためにはどういう施策が必要なのか、キャッシュフローや割引率という数字についての知識を理解していない経営者は少なくとも上場企業における経営者としては失格といえるだろう。
長くなってきたので、(1)はここまで。本書の書評は(2)に続きます…。