書評:『朽ちる散る落ちる Rot off and Drop away』森博嗣/講談社文庫

Vシリーズ第9作。というか、本作は第7作『六人の超音波科学者』の後編ともいえる作品。『六人の超音波科学者』で残された謎が、本作で明らかにされていく。

朽ちる散る落ちる (講談社文庫)

朽ちる散る落ちる (講談社文庫)

土井超音波研究所の地下に隠された謎の施設。絶対に出入り不可能な地下の密室で奇妙な状態の死体が発見された。一方、数学者・小田原の示唆により紅子は周防教授に会う。彼は、地球に帰還した有人衛星の乗組員全員が殺されていたと語った。空前の地下密室と前代未聞の宇宙密室の秘密を暴くVシリーズ第9作。

大風呂敷が広げられたミステリィとしてシリーズで久々に話が大きくなった本作だが、面白いと言えば面白い。第7作をしっかり読み込んだ上で(さらにいえば、S&Mシリーズ、そしてVシリーズとちゃんと通して読んだ上で)本作を読むと、本筋以外の無数にある傍線についても裏やつながりが見えてきて楽しめる(通にはそっちの方が楽しみだという噂もある)。
動機のない(というか、常人には理解できない類の動機を持っている)殺人と、荒唐無稽(に近いけど科学的ではある)な大がかりなトリックが森博嗣作品の見所だが、そういう意味では本作には森博嗣作品の楽しみどころが詰まっている。