中島聡『おもてなしの経営学』に続くシリコンバレーシリーズ。同じシリコンバレーに住み、その立場から日本を考えた作品であるという意味ではどちらも同じだが、その視点、そしてテーマはだいぶ異なる。
ではあるものの、併せて読むことによってその価値はとても高まる気もするのだけれど。
パラダイス鎖国 忘れられた大国・日本 (アスキー新書 54)
- 作者: 海部美知
- 出版社/メーカー: アスキー
- 発売日: 2008/03/10
- メディア: 新書
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「パラダイス鎖国」というテーマに、日本人の多くは説明されずとも何か漠然としたものがイメージできるだろう。悪い意味でのパラダイス鎖国、の方だ。しかし、著者はパラダイス鎖国を単に悪いものとは決めつけていない。もちろん、パラダイス鎖国となること、となってしまっていることを良いことだとしているわけではないし、パラダイス鎖国として日本が完全に閉じてしまわないために、どうすべきかということを本書は大きなテーマとしている。しかし、本書は日本がパラダイス鎖国となる理由について多角的に分析し、様々なデータを使いながらその現実を明らかにしていく。
経営コンサルタントである著者がパラダイス鎖国というテーマの中で訴える内容は幅広い。その幅広さについてはぜひ本書を読んでいただきたいのだが、私が最も本書で価値があると思ったのは雇用慣行に関する部分についての著者の提言だ。
p.163
企業は栄枯盛衰するのが当然なのだから、必要なリストラや企業統合を「悪」と決めつけるべきではない。新しい企業を育てるための人材を供給することになるかもしれないのである。そのためには、大企業からベンチャーに行くというパターンだけでなく、あらゆる企業でいつも人が動き、自然に「捨てる神あれば拾う神あり」の状態になっていることが望ましい。そうすれば、いざ新しい産業が動き始めるときに、一気に人を集めることができる。
自分もその階段を登っておいて何言っているの?といわれるかもしれないが、やはり新卒採用という仕組みから変えていくべきなのではないだろうか。エスカレーター的な人生は本人に取ってだけでなく、社会にとってもはや望ましくない状況になってきている。だれもが転職・起業・育児後のカムバックなどを必要としているわけではないかもしれないが、少なくともそうした人たちが普通に取り組むだけで歩みを踏み出すことができる社会が必要だ。