書評:『ライディング・ロケット(下)ぶっとび宇宙飛行士、スペースシャトルのすべてを語る』マイク・ミュレイン[金子浩:訳]/化学同人

本が好き!プロジェクト経由での献本御礼。
やっと下巻も読了。今年読んだ本の中で、非小説本では一番面白かった作品。書評としては、2/16に書いた上巻の書評の続き。


ライディング・ロケット  ぶっとび宇宙飛行士、スペースシャトルのすべてを語る

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書評/サイエンス

下巻では、2回目・3回目のフライトについて、そして引退についてが書かれる。

(上巻から続く)

  • 第23章 宇宙飛行士の翼
  • 第24章 パートタイム宇宙飛行士
  • 第25章 黄金時代
  • 第26章 チャレンジャー
  • 第27章 伏魔殿
  • 第28章 墜落
  • 第29章 変化
  • 第30章 ミッション割りあて
  • 第31章 神の失墜
  • 第32章 豚フライト
  • 第33章 機密任務
  • 第34章 「びくびくしながら死ぬことはないさ」
  • 第35章 流星に乗って
  • 第36章 クリスティとアネット
  • 第37章 未亡人たち
  • 第38章 「MECOのあとのことなんか考えてないね」
  • 第39章 九分でのホールドはつらい
  • 第40章 最後の軌道
  • 第41章 ホワイトハウス
  • 第42章 旅路の果て
  • エピローグ
  • 訳者あとがき

上巻が宇宙に旅立ちたいという野望に満ちあふれた、理想を目指した顛末記だとすれば、下巻は野望を達成した後の現実と苦悩、そして新たな旅立ちへの顛末記である。そして、下巻最大の山場はやはり、チャレンジャーの事故をめぐる部分だろう。

p.46
アビーからジョンソン宇宙センター所長、さらには長官にいたるまでの幹部はみな、シャトルの運航システムというレッテル、脱出システムの欠如、そして乗客プログラムに関する宇宙飛行士たちの懸念に耳を傾けるべきだった。だが、彼らはそうしなかった。わたしたちは、下手なことをいったら宇宙への順番に影響がおよぶのではないかと恐れていた。わたしたちは、職を失うことの経済的側面を、住宅ローンや子供の学費を払えなくなることを心配しているふつうの男女ではなかった。わたしたちが恐れていたのは夢を失うこと、わたしたちをわたしたちにしている核心を失うことだったのだ。

アメリカであっても、組織の官僚化による問題は発生している。NASAにおいても。スペースシャトルは多くの問題を抱えている(それぞれの問題は1つずつ、解決されているが、それでも根本的な問題を含め、問題は数多い)。
チャレンジャーの事故を乗り越え、著者ミュレインは再開後2回目のフライトに参加、続けて3回目のフライト予定も決まる。そして、3回目のフライトを最後にNASA/空軍を引退することを決心する。

p.212
わたしはマイクのオフィスを出ると家に電話をした。「やったよ、ドナ。いま、こんどのミッションのあとで辞めるってマイクに申し出たんだ。」ドナは一瞬、黙り込んだ。その日の朝、引退を申し出るつもりだとドナに話しておいたが、ドナが信じていないのはわかっていた。それまでに、何度も決心をひるがえしていたからだ。ドナはわたしのジレンマを知っていた。パラシュートで落ちてくるコーヒー缶のカプセルのほうに走っていく十代の少年だったわたしが映っているフィルムを見ていた。手垢のついた『宇宙制服』が、わたしにとってどんなに大切な宝物かを知っていた。うちには何箱分もの、わたしが子供時代に収集した宇宙グッズがあった。

宇宙飛行士を辞める。その決心は普通の仕事を転職するのとはレベルの違う決断だっただろう。

p.303
グリフィン博士は上院で、「シャトルはもともと欠陥のあるシステムです」と述べて、2010年までにシャトルを退役させる意向を言明した。博士は正しい。(中略)「人間には完璧を実現することなど不可能です。遅かれ早かれ、またシャトルは事故を起こすでしょう。そのまえに引退していたいものです」

NASAは多くの人名と、多くの予算と、多くの時間を費やしたものの、その結論に達した。地表からたった300km上空に行くだけで、これだけの課題があるのが現実だ。しかし、宇宙へのチャレンジを人類がやめることはないだろう。様々な理由がつけられるであろうが、そこは人類にとってのフロンティアなのだから。