書評:『夏のレプリカ REPLACEABLE SUMMER』森博嗣/講談社文庫

S&Mシリーズ第7作、読了。第6作・第7作は2つの個別のストーリーを展開しながらも、小説内における時間軸においてストーリー的に同時進行しており、かつ「名前」というキーワードを根幹としている共通点を持つ。

夏のレプリカ (講談社文庫)

夏のレプリカ (講談社文庫)

元々5作からなるシリーズとして予定されていたS&Mシリーズは第6作の『幻惑の死と使途』と第7作の『夏のレプリカ』から第2幕といえる展開を見せる。前半の主人公が犀川だとすれば、後半の主人公は西之園萌絵といえるかもしれない。次第にS&Mシリーズの探偵役?は犀川から萌絵にその軸足を移していく。本作『夏のレプリカ』では、犀川はついに最後のシメを含めて「謎解き」をしない(もちろん、いつも通り自分の中で推理は完結しているのだけれども)。

T大学大学院生の簑沢杜萌は、夏休みに帰省した実家で仮面の誘拐者に捕らえられた。杜萌も別の場所に拉致されていた家族も無事だったが、実家にいるはずの兄だけが、どこかへ消えてしまった。眩い光、朦朧とする意識、夏の日に起こった事件に隠された過去とは?『幻惑の死と使途』と同時期に起こった事件を描く。

書評を続けていてなんなのだが、新書や技術本、ノンフィクション本はともかく、フィクションの極みともいえるミステリィの書評なんぞは誰の役にもたたないだろう。そんなものは、好きなら読めばいいし、読む気がなければ読まなくてもなんら困らない。個人的にも、誰かにこの書評を読んでS&Mシリーズに興味を持ってもらいたいなどというよりも、こうやって書評を書くことによって、キーワードリンクによるつながりや個人的な満足感を高めるために書いている。
ただ、多くの読者に支持されながらも、本格的ミステリィとは一線を画している森博嗣の作品は年末年始の休みの時間をつかって読む価値はあると私は思う。