書評:『封印再度 WHO INSIDE』森博嗣/講談社文庫

封印再度 (講談社文庫)

封印再度 (講談社文庫)

S&Mシリーズ第5弾、読了。S&Mシリーズは全10作だが、本作を持って第1幕閉幕といったかんじ。起承転結でいえば、本書は「承」から「転」へと転換する入口といえるかもしれない。毎回S&Mシリーズの書評を載せるたびに書いている犀川と萌絵の関係については本作で大きくジャンプアップ?まぁそこらへんが本書が第1幕の最後、とされる理由だろう。

50年前、日本画家・加山風采は息子・林水に家宝「天地の瓢」と「無我の匣」を残して密室の中で謎の死をとげた。不思議な言い伝えのある家宝と風采の死の秘密は、現在にいたるまで誰にも解かれていない。そして今度は、林水が死体となって発見された。二つの死と家宝の謎に人気の犀川・西之園コンビが迫る。

本書でも複数のトリックが事件に絡み付いているのだけれども、英語タイトルの理由となっているトリックは少々簡単過ぎ、家宝に関するトリックは少々反則気味な気がしなくもない。まぁ別に1つお勉強になったし、これをきっかけに色々調べて余計な知識を付けてみたりしたのでまぁいいけど。
1作目から3作目あたりまでは遅々としてほとんど進展しなかった犀川と萌絵だが、4作目、そして5作目とこの2作で大きく進展。S&Mシリーズを5作からなる作品として当初考えていたのだろうか。後半5冊の内、4作の文庫本がすぐそこに積み上げてあるのだけれども、後半の文庫本の分厚いこと。前半の5冊がどれもおおよそ600ページ弱だったのに対して、最終作『有限と微小のパン』は860ページ以上あるみたい。それ以外も後半の作品は前半5作と比較して明らかにページ数が多い。分厚い文庫があまり好きではないという人が多いみたいだが、別に私はかまわないと思っている。上下巻にわけられるよりよっぽどよい。これまでに読んだ中で最も分厚かった印象のある文庫本は高橋克彦の『総門谷』だが、これまで読んできた5冊からも、S&Mシリーズ後半の分厚い文庫本には期待大なわけである。
それにしても本作、事件のトリックなんかよりも全然インパクトのでかい展開が待ち受けていました。
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