書評:『頭脳勝負−将棋の世界』渡辺明/ちくま新書688

頭脳勝負―将棋の世界 (ちくま新書)

頭脳勝負―将棋の世界 (ちくま新書)

20歳で竜王位を獲得、現在23歳で3期連続防衛中。勉強ができるのとは違う意味で著者が「頭の良い」人であることがよくわかる一冊であった。本書は将棋(と将棋界)について、様々な角度から紹介・説明し、将棋の魅力を伝える内容なのであるが、多くの人が将棋や将棋の"プロ"に対して抱いている様々な疑問についてや、将棋にたいしてとっかかりにくいと感じている要因などについて丁寧に答え、とっかかりにくさを解きほぐそうとしている。将棋界の中心にいると言ってもよい立場にいながらも、一般の人の視点を踏まえて丁寧に書かれているところがすごい。大概、その道のスペシャリストは素人に自信の仕事や考えを、素人の立場に立って説明することができないからだ。本書を読めば、きっと将棋をやったことがない人も次に新聞で将棋欄を目にしたときふと目を留めるぐらいには、将棋に興味を持つようになるだろう。

  • 第1章 頭脳だけでは勝てない

偶然の少ないゲーム/集中力のメリハリ/ヤマを張る/気合いで行くか、冷静になるか/封じ手の駆け引き/直感の精度/ミスと切り替え/駆け引きは対局の前から/二大戦型/出来を左右する対局の重要度/普段のトレーニング/調子の良し悪し/将棋は何歳がピークか/小学生からプロを目指す/学業と将棋の両立/趣味と息子

  • 第2章 プロとは何か

奨励会制度/私の奨励会時代/将棋にコーチはいない/プロはどうやって稼ぐか/新しいニーズ/名人戦棋士のランク/レッスンプロの待遇/段位と実力の関係/トップと新人の実力差は/女流棋士の強さ/女流新団体/アマとプロの差/強くなる手段に困らない時代/アマからプロになった男/ブロガー渡辺/コンピューターの進化/ボナンザ戦を受けた理由/いよいよボナンザ戦/コンピューターはどこまで強くなるか

  • 第3章 将棋というゲーム

スポーツを観るように将棋も/序盤は作戦を練る/バランスは相手を見て/互角でも好みはある/実利を求める中盤/方針を徹底する/勝負を決める終盤/実践を見よう!/駒のやりとりでポイントを稼ぐ/損得だけでなく「効率」も見る/スピードが問われる/定跡と研究/一手の違いで全く新しい世界が/現代将棋と過去の大棋士/トップ棋士たち/同世代のライバルたち/追撃する最若手と踏ん張るベテラン

  • 第4章 激闘!

防衛戦の前に/開幕二連敗/「開戦は歩の突き捨てから」/存在しない局面が見える!/流れを変えた角打ち/佐藤康光再び/突然の不調/超急戦/全く予想外/盲点/自分を信用すること

  • 付録1 ルール解説
  • 付録2 さらに将棋を楽しむために

将棋とは何か、将棋のプロ・将棋界とはなにか、将棋というゲームにおける流れ、将棋のプロの思考についてなど、本書は200ページちょっとの新書というボリュームの中に将棋の様々な面がぎっしりと詰め込まれている。単に将棋というゲームについての解説や、将棋界の仕組みについてだけでなく、現在将棋界をリードする面々についてや、著者の視点での将棋の開始から終了までの思考状況、将棋界のかかえる問題など幅広く、かつそのすべてを含んでいるところにこそ本書の価値がある。
丁寧に将棋のルール解説までが掲載されているところも親切。学術本のように、最後に付録として「さらに将棋を楽しむために」として将棋に興味を持った読者が次のステップとして進むべき道しるべを掲載しているところもよい。
将棋本でありながら、本書にはほとんど将棋面が出てこない。とはいえ、出てこない訳でもない。ほどよく、必要な面は掲載し、その読み方についてもさりげなく理解させるところも憎い。
そこらへんのコンピュータ将棋にもかなわないぐらいの素人将棋で十分なレベルなので、ちょっと久々にやってみようかなー。