書評:『ウェブ時代をゆくーいかに働き、いかに学ぶか』梅田望夫/ちくま新書687

ウェブ時代をゆく ─いかに働き、いかに学ぶか (ちくま新書)

ウェブ時代をゆく ─いかに働き、いかに学ぶか (ちくま新書)

梅田望夫(あえて本書では"さん"付けせずに書きます、勢いで書きたいので)の前著『ウェブ進化論』よりも私には100倍読み応えがあった。読み終わった後、じっくり考えてから書評をUpしようかと考えていたのだが、Blogらしく思いが熱いうちに文章を書き綴ってみる。
なぜ100倍読み応えがあったのか、それはIT業界?の端っこで仕事をしている私にとっては梅田望夫が見た「ウェブ進化論」よりも、梅田望夫がウェブ時代の到来に際して「どう考えているのか」、そして「何を伝えたいと考えているのか」ということの方が興味があったからだ。
どちらかというと、「ウェブ進化論」は新しい世界の誕生をよくつかめていない人を対象として、その新しい世界の持つ意味や役割、そしてそこで起ころうとしていることは何なのかということを梅田望夫の視点で説明した著書であったと思う。対して、本書「ウェブ時代をゆく」は、ウェブ時代という新しい世界が誕生し、これまでの世界とは異なる仕組みやルール、基準が存在する空間が大きく広がってきたということを認識した著者自身が、その新しい世界でどのように歩んでいくべきなのかを考え、そして自身の経験やこれまで歩んできた道を含めて読者に対して新しい世界における歩み方のガイドを試みている。私にとっては、梅田望夫が見た「あちら側」世界についてよりも、「あちら側」世界を認識した梅田望夫という個人そのものに興味があった。
梅田望夫「が」書いた本よりも、梅田望夫「を」書いた本の方が、そこに綴られた文章に込められた思いは強い。

  • 序章 混沌として面白い時代 

一身にして二生を経る/オプティミズムを貫く理由/「群衆の叡智」元年/グーグルと「産業革命前夜」のイギリス/学習の高速道路と大渋滞/ウェブ進化と「好きを貫く」精神/リアルとネットの境界領域に可能性/フロンティアを前にしたときの精神的な構え

  • 第一章 グーグルと「もうひとつの地球」

営利企業であることの矛盾/グーグルはなぜこんなに儲かるのか/奇跡的な組み合わせ/グーグルの二つ目の顔/「もうひとつの地球」構築の方程式/「経済のゲーム」より「知と情報のゲーム」/利便性と自由の代償としての強さを

  • 第二章 新しいリーダーシップ

人はなぜ働くのか/まつもとゆきひろが起こした「小さな奇跡」/オープンソース成功の裏には「人生をうずめている人」あり/ウェブ2・0時代の新しいリーダー像/ウィキペディアのリーダーシップ/「知と情報のゲーム」と「経済のゲーム」の間に起きる齟齬/事業機会を失ってもコミュニティの「信頼」を/なぜネットでは「好きなことへの没頭」が続けられるのか/良きリーダーの周囲に良き「島宇宙」ができる/総表現社会参加者層の台頭

高速道路を猛スピードで走る少女/日本のシステムで息苦しい思いをしている人のために/「高く険しい道」をゆくには/「見晴らしのいい場所」に行け/高速道路を降りて「けものみち」を歩く/「五百枚入る名刺ホルダー」を用意しよう/「流しそうめん」型情報処理、つながった脳、働き者の時代/「けものみち力」とは/正しいときに正しい場所にいる

ロールモデル思考法とは何か/なぜ「経営コンサルティング」の世界に進んだか/ロールモデルの引き出しをあける/「十九世紀初頭の新聞小説」とブログ/日本の若者を応援するときのロールモデル/自分の志向性を細かく定義するプロセス/ブログと褒める思考法/生きるために水を飲むような読書、パーソナル・カミオカンデ/行動に結び付けてこそのロールモデル思考法

  • 第五章 手ぶらの知的生産

知のゴールデンエイジ/世界中の講義・講演を瞬時に共有できる時代/十年後には「人類の過去の叡智」に誰もが自由にアクセスできる/手ぶらの知的生活/これからの知的生活には資産より時間/ネットは知恵を預けると利子をつけて返す銀行/「文系のオープンソースの道具」が欲しい/群衆の叡智を味方につける勉強法/ネット空間の日本語圏を知的に豊穣なものに

  • 第六章 大組織VS.小組織

情報共有と信頼/やりたいと思う仕事に自発的に取り組む/情報共有と結果志向型実力主義/有事には情報共有を前提とした組織になる/小さな組織は情報共有で強靭になれる/小さな会社で働き、少しでもいい場所に移ろう/「三十歳から四十五歳」という大切な時期を無自覚に過ごすな/自らの内部にカサンドラを持て/「古い価値観」に過剰適応してはいけない

  • 第七章 新しい職業

「新しい職業」と「古い職業」/「新しい職業」の誕生を信じる人は「ウェブ・リテラシー」を/オープンソースが生んだ新しい「雇用のかたち」/「志向性の共同体」とスモールビジネスの経営/スモールビジネスとベンチャービル・ゲイツの後半生を徹底肯定する/世界の難題の解決にネットが本格的に利用される時代

  • 終章 ウェブは自ら助くる者を助く

人工国家に似た「もうひとつの地球」ができれば/より求められる「自助の精神」/サバイバル優先、すべては実力をつけてから

  • あとがき

p.033
本書は、ウェブ進化という同時代の大変化の真っ只中で、私たち一人ひとりがどういう心構えで生きていくべきか、そのことをテーマとしたい。

一般論を語らず、あくまでも梅田望夫の視点・思いで貫かれているところがよい。梅田望夫プログラマでもスペシャリストではなく、とことん突き詰める才能を持ったゼネラリストだ。ゆえに、新しい世界においてすでに活躍している人であっても本書において描かれている、新しい世界についての幅広い視点は一読する価値がある。どこの部分が個々人にとって得るもののある内容かはそれぞれであろうが、梅田望夫という特殊な?アルファブロガーが綴った文章には自分が持っていなかった視点や考え方が含まれているだろう。
Googleの持つ2つの顔について、新しいオープンソース的な生き方について、ネット時代における高速道路とその先について、ネット時代に対する心構え/思考法、新しい世界において情報の持つ意味と役割(共有された情報と知的生活のためのスタンス)、情報の扱い方の変化によりもたらされる組織という枠組みの変化、そして新しい仕事や仕事の仕方。
2年にわたって梅田望夫が集中的に取り組んだ本書を、新書として読むことができる。通勤電車やカフェでなど、オフライン時間のお供にいかがだろうか?