書評:『運は数学にまかせなさいー確率・統計に学ぶ処世術』ジェフリー・S・ローゼンタール:著、中村義作:監修、柴田裕之:訳/早川書房

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運は数学にまかせなさい―確率・統計に学ぶ処世術

  • ジェフリー S.ローゼンタール、中村 義作、柴田 裕之
  • 早川書房
  • 2100円
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書評/サイエンス

確率や統計を学び始める頃に読んだら、もしかしたら数学者を志す人がでてくるかもしれない一冊。数学を「勉強」ではなく、意味のある、「知っていると人生がちょっと楽しくなる」知識として紹介してくれる。

目次

  • 第1章 無作為性に囲まれてーどちらを見ても確率、確率、また確率
  • 第2章 その確率は?ー偶然の一致と意外性
  • 第3章 法則を見極めるーなぜカジノはかならず勝つのか?
  • 第4章 カードで勝負ーブリッジ、ポーカー、ブラックジャック
  • 第5章 殺人という最も卑劣な行為ー傾向を読む
  • 第6章 満足のいく意思決定ー決断の下し方
  • 第7章 白衣の研究者は信用できるか?ー調査から言えること、言えないこと
  • 第8章 そんなこと起きるはずがないーとても低い確率
  • 第9章 コーヒーブレークー経営が傾いたカジノの話
  • 第10章 五十一%と四十九%ー世論調査のほんとうの意味合い
  • 第11章 二十回に十九回までー誤差の範囲
  • 第12章 ランダム性が救いの手ー不確実性があなたの味方となるとき
  • 第13章 進化と遺伝子とウイルスー生物界に見られるランダム性
  • 第14章 難問「モンティ・ホール」問題ー手掛かりから確率を見つけ出す
  • 第15章 スパム、スパム、確率、そしてスパムー迷惑メールをブロックする
  • 第16章 無知とカオスと量子力学ーランダム性を生み出すもの
  • 第17章 最終試験ー確率の観点をものにできたか?

確率と統計ほど、つかいこなすことによって物事の見方の幅が広がる知識はないかもしれない。だれもが毎日の生活の中で、確率や統計的な考えをしている。雨が降るだろうか?今日行かなければならないお客さんの機嫌はいいだろうか?などなど。ただ、実際には直感的に感じる確率や統計と、理論的に導きだされた確率や統計との間には大きな乖離がある場合が多い。本書は様々な事例や、様々な小ストーリーなどを通して、楽しく読み進めながら自然と理論的な確率と統計の知識を身につけられるように構成されている。大人にとっても十分読み応えのある一冊であるが、中学生が読んでも十分楽しんで読むことができるだろう。秋の長雨、読書の秋にちょっとチャレンジして読んでみると、もしかしたら世界が変わって見えるようになるかもしれない。
本書には例として紹介したい面白い話題が満載なので、どれをつまみだしてみるべきかとても悩ましいのだけれども、こんな部分はどうだろう。

p.263
「早業のチャーリー」という抜け目のないカード使いに、「さあお客さん、寄ってらっしゃい。スリーカード・スリラーをやらないかい?」と声をかけられたとしよう。おそるおそる近づいてみると、チャーリーはここぞとばかり言い募る。「見てのとおり、この三枚、一枚は両面とも赤、もう一枚は両面とも黒、三枚目は表が赤で裏は黒だ。さあ、いいかい?」あなたはうなずく。「それじゃ、ここにある大袋の中で、カードをよく混ぜる。混ぜたらどれでも好きなカードを引いて、テーブルの上にどっちかの面が上でもいいから置いてくれ」
あなたはためらいながらも、袋の中でカードをかき混ぜ、一枚つかむと、チャーリーの目の前に静かに置く。上を向いているのは鮮やかな赤の面だ。「よし、と。今、見えているほうは赤だ、いいね?」とチャーリーは言う。「つまり、黒ー黒のカードは引かなかったってことだ、そうだな?あんたが引いたのは赤ー赤のカードか赤ー黒のカードのどっちかだ。裏側が赤か、それとも黒かは五分五分のはずだよな、そうだろ?」

このあとの展開はぜひ本書でお読み頂きたいのだが、チャーリーの言っていることは嘘だ。裏側が赤い可能性の方が高い。なぜそうなるのか、そして赤い確率と黒い確率はそれぞれどの程度なのか、ぜひ考えてみてほしい。
そしてトドメはモンティ・ホール問題。けっこう有名なので知っている方も多いかもしれないが、知っている方もぜひ本書でこの問題に至までの過程、そしてこの問題から見えてくる数学の面白さにぜひ触れてほしい。

p.265
「モンティ・ホール」問題は、三つのドアのうちどれかの向こう側に新車があるという前提になっている。あなたはまずドアの一つ(たとえば「ドア1」)を選ぶ。すると司会者は別のドア(たとえば「ドア3」)を開けてみせるけれど、車はない(実際は車のかわりにヤギがいる)。ここであなたにチャンスが与えられる。最初に選んだドア(「ドア1」)のままでもいいし、まだ開いていないドア(「ドア2」)に変えてもいい。もし最終的に選んだドアの向こうに車があれば、それはあなたのもの、なければあなたの負け。
問題は、最初に選んだドアのままのほうがいいのか、それとももう一つドアに変えたほうがいいのか、だ。車がありそうなのはドア1の向こうか、それともドア2の向こうか?ほとんどの人は、変えても変えなくても勝てる確率は同じだと考えるけれど、ヴォス・サヴァント(takaochan註:「モンティ・ホール」問題を取り上げたコラムニスト)はドア2に変えれば勝てる確率が二倍になると主張した。

さあ、彼の主張は正しいのだろうか?間違っているのだろうか?「なぜ正しいのか」「なぜ誤っているのか」まで説明できるようになると、ちょっと世界が面白くなると思いませんか?