書評:『サバイバルとしての金融〜株価とは何か・企業買収は悪いことか』岩崎日出俊/祥伝社新書008

サバイバルとしての金融―株価とは何か・企業買収は悪いことか (祥伝社新書)

サバイバルとしての金融―株価とは何か・企業買収は悪いことか (祥伝社新書)

初給料をもらった新入社員にはぜひ読んでもらいたい一冊。また、株式に手を出して「儲けよう」と考えている人は、本書に書かれている内容は前提として認識しておくべきだ。株式を扱った雑誌や、週刊誌の記事などを読む前に、ぜひ読んでもらいたい。

「株価は、その本来の価値を実現する価格に落ち着くことになっている」ーコロンビア大学グレアム教授

本書では金融、というよりも「現代社会におけるお金との付き合い方」をどう考えるかといった基本的な内容を扱っている。上記グレアム教授の言葉は当たり前のことを言っているように思えるが、「本来の価値」とは? ということは金融工学を駆使しても難しい。しかし株式を単に難しいものと考えるのではなく、しっかりと株式が「どのようなものなのか」を理解するために必要な考え方を本書はとてもわかりやすく説明してくれる。

目次
第一章 「金融」はあなたを金持ちにするか
第二章 お金にコントロールされずに、お金をコントロールする生き方
第三章 「儲かる株をみつけることが社会を豊かにする」とはどういうことか
第四章 儲かる株はどうやって見つけるのか
第五章 本来の株式価値を計算する
第六章 株式市場の効率化を助けるM&A(合併・買収)
第七章 企業価値の視点を持つ
第八章 企業の価値を極大化する経営とは
第九章 金融の前線から

お金についてどういうポリシーを持つか、どう対応していくのかは人生の豊かさに必然的に影響する。日本の投資証券会社(日本興業銀行)と外資の証券会社(J.P.モルガン、メリルリンチ、リーマンブラザーズ)を渡り歩いた著者が「株式」をどう考えるかという見方はお金について考える上で大きく参考になる。740円でお金について考えるきっかけを学べるのであれば安い一冊だろう。
本書から得られるお金についての視点はどこも重要と思えるが、以下の意見は新しい視点だった。

M&Aの「売却」は嫌だが、IPO(新規株式公開)をしたい経営者
…会社を上場することと、M&Aで売却することの違いは何でしょうか。…実は上場も売却も大きな違いがありません。株式を全部にしろ、一部にしろ、特定の第三者に売れば、M&Aでいうところの売却です。…一方、上場するというのは、不特定多数の第三者に株式の一部を売却することに他なりません。…「特定の第三者が入ってきて、株主総会や取締役会でうるさく発言されたらかなわない。一方、上場であれば、引き続き親会社がコントロールしつづけることができる」こういった日本の経営者の頭の中には、上場した結果、その株を買うことになる不特定多数の株主の利益のことなど浮かんできません。

色々な意見があるが、日本の会社や株式市場は世界的に株主に対する考え方や認識がゆるいことは確かだろう。今後、世界の中で日本の会社や株式市場がどんな立場となっていくのか、そういう意味では、企業の経営者にもぜひ読んでもらいたい一冊でもある。