書評:『私が愛した官僚たち』横田由美子/講談社


私が愛した官僚たち

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書評/社会・政治

非常に読み応えがあったのだが、初の書籍ということもあるのだろう、少々まとまりに欠けるというか、だいぶ勢いで書かれた一冊であった。ただ、それくらいの方が官僚という人間を、人間らしく描くにはちょうどよかったのかもしれない。確かに、結局官僚といえども人間なんだな(;´∀`)ということが本書を読むと色々な意味で伝わってくる。…と同時に、非常に優秀な人間の使い方?として、日本はなんとまぁ無駄な使い方をしているもんだんぁとも思う。

経済産業省の二十八歳の係長は、「(上司の)課長に力なんてありませんよ」といい放った。彼によると、法案の最初の草案を作っているのは係長や、課長補佐クラスで、彼らのような若手が法制局に持って行って駆け引きや押し問答し、大枠はこの段階で決まるというのだ。
<本書p.26 より>

まぁそれはよいとしよう。非常に若いうちに現場を担当することができることはいいことだ。が、だったら課長以上の人は何やっているの?という話。

実際に政治家に話をつけまとめ上げていくのは肩書きがないと難しいから、課長以上の高級官僚の仕事となるが、課長は下から上がってきた案に対してGOを出したり、細部の疑問点を提示したりするだけが仕事だという。
<本書p.27 より>

…。
本書を読むと「官僚」と同時に「官僚を卒業した人たち」が多く登場する。組織構造的に、勝ち抜きレースに脱落した者から組織から去らなければならないような構造は、その反動として多くの天下りや政治家転向などがある意味で「必要」な組織体系ともいえる。本書でも政治家に転向したり、ファンド・マネージャーになったり、そして自ら起業したりした「元」官僚たちが多く登場する。彼らが自らの力を活かせる場を見つけ、そして省庁を飛び出していったことは個々にはよいのだが、省庁の中でその能力を活かしていく場を作ることができないのか、やはり構造的に時代の変化に対応すべきなのだろう。なんといっても、中途採用を行わないような組織でよいのか、出向や留学などといった仕組みはあっても必要な人材を取り込み、変化に対応していくためにも中途採用や再雇用など、人材の流動化に対応する必要があるのは民間企業だけではないだろう。
良くも悪くも、優秀な人材が集まった省庁における官僚たちにもなかなか個性的な人たちがいることは本書からも伝わってきた。民間企業であればどうでもいいことだが、官僚は日本の省庁で働く貴重な人材だ。省庁における組織やあり方は選挙や政治参加、そして官僚になる人たちも含め、日本人として積極的に考えるべき対象だと思う。
地方公務員やいわゆるノンキャリア国家公務員は安定志向なのかもしれないが、本書で扱っている国家公務員はいわゆるキャリア組みの現実はなかなか厳しい。「官僚という仕事を選んだ」人たちが傍目から見るほどオイシイ仕事だということではないことは本書に様々な面で描かれている。だからといって、不正に手を染める官僚がいることの言い訳にはなんにもなりませんけれども。
これから公務員試験を受けようとしている方にはぜひお読み頂きたい一冊です。