書評:『反戦軍事学』林 信吾/朝日新書021


反戦軍事学

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「戦争に反対する者こそまず軍事を知らなくてはならない」というテーマには非常に共感したのだが、本書の内容ははっきり言って期待はずれだった。前半こそ非常にわかりやすく、軍事に対する見方を述べているのだが、次第に書きながら著者も熱くなっていったのだろう、だんだんと意見を訴え、著者が誤った考えだとする様々な著書に対する批判・指摘が展開されるようになる。後半はもはや著者の考えを強く訴えるだけの内容になってしまい、「軍事学」といえるほど深い考察は展開されていない。これでは最後の結論が『軍事問題が理解できれば、国際政治も理解できる。知識を蓄え、情緒的にではなく論理的に、戦争に反対しようではないか。』というのも少々白々しくすら思えてしまう。本書自体、後半はあまり論理的な議論が展開されているとはいえないからだ。
ただ、内容として読むに値すると思えた部分は核武装に関する議論の部分だ。核兵器の有無が戦争抑止力を持つとするMAD(相互確証破壊)議論がいかに根拠のない議論なのか、この部分については一つの考え方として本書により視点の幅を広げることができた。
新書として本書を読むことは著者の意見という「一つの考え方・視点」があることを知るという意味での価値はあるだろうが、もう少し深い議論が展開されることを期待していただけに内容については物足りないと感じた。