CGMマーケティング 消費者集合体を見方にする技術


CGMマーケティング 消費者集合体を味方にする技術

livedoor BOOKS
書誌データ / 書評を書く

この本に結論はない。CGM(Consumer Generated Media)マーケティングは現時点でも利益構造とどのように折り合いをつけることが最適なのかということについて試行錯誤を続けている状況だからだ。いわゆるWeb1.0とされるWebサービスと、Web2.0とされる「新しい」タイプのWebサービスの大きな違いはユーザが生成するコンテンツ(=CGM)を活用することによってサービスをさらに魅力的にしていく"仕組み"を持っているかどうかだと私は思っているのだが、この本ではそうしたCGMによって成り立つサービスをいかに育てるか、そしてどのような形で利益を生み出すのかという点について様々なサイトの実例を示しながら考察が展開されている。
本書では1.0型メディアと2.0型メディアを以下のように分類している。

メディア類型 定義
1.0型メディア 運営者が編集し、消費者へ一方的に配信されるメディア(テレビ・ラジオ・新聞・雑誌の既存メディアと、これらと同じ手法で配信するWebサイト)
2.0型メディア 消費者間が双方向に配信されるメディア(ブログ・SNSなど、消費者間で双方向にCGMが生成され、集合体となったもの)

そしてその上で、双方向性を持つがゆえに批判的な意見も配信されてしまうことや情報の質にどうしてもムラが発生してしまうことなどから広告などによるスポンサーを得づらく、結果として儲かりにくい性質を持っているというWeb2.0型最大の問題を提示、この問題に対して様々なサイトがどのように取り組んでいるのかを紹介する(第2章・第3章)。私としてはこの問題を完全に解決するような方法はないと考えているが、メディアの形態により様々な方法でスポンサーにとっても価値のあると思える場を提供できるようになっていくのではないかと思う。まさに新しい形態のマーケティングの考え方といえるかもしれない。
また、CGMを活用した2.0型メディアはここ数年で急激に市場を拡大しているが、新しい市場であるが故に非常にたくさんのサイトが激しい競争を繰り広げている。そしてそこでは、非常に微妙な差がネットワーク外部性によって決定的な差として現れる場合が多い。本書ではほんの数日違いでSNSサービスを開始したmixiGREEを比較し、初期のわずかな差がネットワーク外部性を生み出した状況を実例として挙げている(第4章)。SNSはユーザ同士がつながりあう場を提供する形態であるがゆえ、非常に強力なネットワーク外部性が働くメディアといえるが、ブログなどはRSS/Atomという汎用的な閲覧の仕組みが用意されたため、ある程度のネットワーク外部性は働くものの様々なサービスが共存しやすいメディアとなっている。2.0型メディアとしてまとめて取り上げられることが多いが、それぞれのサービスではそれぞれのやり方があり、CGMマーケティングの手法も異なる。今後はより詳細に、サービス形態ごとのCGMマーケティング手法が研究されるようになっていくだろう。
2.0型メディアのビジネスモデルは大きく分類すると以下の4つとなると本書はしている。

  1. 広告型:コンテンツとあわせて広告を掲載し、出稿料を得る形態
  2. 販促型:コンテンツと連動する形で販売を促進する形で収益を得る形態
  3. エスクロー型:情報の発信者と受信者をマッチングし、課金システムを提供することによって手数料を得る形態
  4. データベース型:消費者が発信する情報をデータベースとして保有することによって、そこからサービスを生み出して利益を得る形態

各タイプごとに実際のサイト例を示し、どのようなメディアがどのようなかたちで利益を得る仕組みを構築しているのかについてわかりやすく説明が展開される(第5章)。同じタイプでも扱う情報や商品によって実現させる形は異なる。ネットとの親和性の高いもの/低いもの、ビジネス化しやすいもの/しづらいもの、…。実際にサービスを提供する各メディアはそれぞれが「特徴」として他にない仕組みを提供しているが、どのサービスもいかに利用者に継続的に使用してもらうか、モチベーションを維持してもらうかについて様々な工夫を行っている。第5章の後ろに添えられた旅行情報の口コミサイト フォートラベル(http://4travel.jp)のインタビューはリアルなサービス提供者の声として興味深い。
商品・サービスを提供する側と利用する側。その両者に対して2.0型メディアは絶妙なバランスを求められる。どちらの側にとっても2.0型メディアを利用することはこれまでとは違う考え方や対応が求められる。本書では炎上に対する対応などを実例を含めて紹介し、新しい形のメディアに対する対応について様々な考え方が紹介されている(第6章・第7章)。こうした問題は双方向性を持ったメディアだからこそであるわけで、新しいマーケティングでは伝えることではなく、フィードバックされる様々な情報をどう活かしていくのかということが大きな課題といえると思う。
Web APIやTAG、Ajaxなど2.0型メディアとともにそれを支える技術についても本書では言及されている(第8章)。これらの技術を使っているから2.0型メディアというわけではないが、2.0型メディアを支える技術は必要だから登場してきたわけであり、なぜこれらの技術がもてはやされるのかについて技術面の知識を持っていることはマーケティング面からも重要だろう。
2.0型メディアでは、これまでの1.0型では絶対に出てこなかったであろうコンテンツについて書かれている(第9章)。本書ではlivedoorビデオを通じて出てきた『やわらか戦車』を例として挙げているが、こうした流れは既存メディアももはや無視できない存在となりつつあり、今後は2.0だからどうこうというわけでなく、既存メディアも含めてどう様々なコンテンツを発掘し活かしていくか。発掘は2.0型メディアの得意な面であるし、育てていくことは1.0型メディアの得意な面であるわけで、今後は相互のコラボレーション的な企画は増えていくだろう。
CGMマーケティングとされている新しい形態のマーケティングを考えるきっかけとして、全体的に現状をまとめている本書は有用だと思う。