職人のアジア

なぜ日本に老舗企業が多いのか、そしてアジアの他の国々には老舗企業がほとんどないのか、ということを解き明かす一冊。
老舗企業、といってもこの本では「ただ長続きしているだけ」の企業は登場しない。自社が持つ技術を新たな分野に活かしたり、時代の流れにただ流されるのではなく長期的な視点で研究開発に取り組んでいたりなど、一般的に名を知られていなくても実は特定の分野で大きなシェアを持っている企業や特殊な技術で他社を圧倒していたりする企業が19社が紹介されている。
世界最古の企業"金剛組(578年創業)"に始まり、携帯電話を支える様々なコア技術を持つ企業が複数紹介される。携帯電話の歴史はそんなに長いものではないが、その携帯電話の小型化や各機能は日本の老舗企業が長い歴史の中で培ってきた職人技術なくては実現できなかったものであるということが興味深い。"エプソントヨコム(1891年創業)"のつくる人口水晶など、いくつかの技術はその会社の工場が停止すると世界の携帯電話の作成がストップするほどの影響力を持った企業もある。
時代の流れの中で最先端機器のためのパーツを製造していても、その製造技術やノウハウは長年の職人仕事で培ってきたノウハウや経験に基づいた確固たる基盤に基づいていることもここで紹介されている老舗の共通点といえる。次々と新製品が登場する携帯電話の影で次々と発生している破棄された携帯電話の処理も元々鉱山で製錬工場を長年営んできた"DOWAホールディングス(1884年創業)"であるということも面白い。世界のどんな鉱山よりも金含有量が多い破棄携帯の山は金以外にも様々な金属(銀や銅、プラチナなどの白金属)が含まれており、それらを分離製錬する技術は日本の鉱山が様々な不純物を含んだ鉱山であったがために培われた技術であるということは偶然とはいえそれを破棄携帯の処理につなげる点が老舗企業のある種の「たくましさ」といえるかもしれない。
もちろんこの本で紹介されている「老舗企業」はあくまでも例外的なたくましさを持ち、発展を遂げた企業であるともいえるのだが、そうした職人技術を脈々と受け継いできた老舗企業を生み出し育て上げてきた”職人のアジア”こと日本の強みについて考えるきっかけとなる一冊です。